2019年5月27日
(マラソン講座)データから読み解いた航空事業
(第22回;2019年5月27日)
スターフライヤーの事業構造
“らしさ”とANA提携
スターフライヤー(SFJ)の事業構造について、東証二部に上場した2011年度からの決算資料等をもとに概説します。
1. 事業構造の特徴は2つ;
① “らしさ”; 世界的汎用小型機材であるA320型を、ピッチを広くしたモノクラス150席という少数席数で運用、そのゆとりある機内仕様を活かした個性的な高サービスで、高めの収入単価と高い搭乗率を達成して利益をあげるという事業モデルである。
因みにこの型の機材は、LCCやFSCのモノクラス運用では180席規模で、デュアルクラス運用でも160席以上で使われるのが一般的である。
② ANAとの提携; 生産座席の多く(平均で1/3強)をANAに販売することで固定収入を確保するとともに、自社販売座席数を90~100席規模に圧縮して収益性を得やすくしている。同時に燃油購入、地上業務委託、予約や販売システムなどでANAの仕組みを利用する(≒ANA傘下)ことで業務の効率をあげ低コスト化を実現している。
2. 収益性悪化の危機をANA提携で乗り切る;
① 上場して羽田以外の国内路線や国際線に規模拡大を急いだこと(特に国際線の釜山線)が裏目に出て収益性は一挙に悪化、2013年度は大幅な赤字に転落した。
② 国際線と関西=福岡路線からの撤退、そしてANAとの提携の深化(ANAからの支援)によって再建が図られた。 ANAは2012年12月に、それまでSFJの大株主であったDCM社から全株買い取り、保有比率17.96%の筆頭株主となった。
③ 提携深化の内容;
1) コードシェアの拡大; ANAがSFJから座席を買い取り、それをANA便として販売するというコードシェアの路線・規模を拡大した。 これはSFJにとってANAからの固定収入を確保し、同時に事業規模の実質的縮小(自社販売座席数の圧縮)でもあった。
2) ANAへの業務委託; 生産体制整備に関してANAから支援を得るとともに、多くの業務をANAに委託した。 これがコスト低下をもたらした。
3) このことはANAにとっても好都合であった。
こうした提携手法は既にAirDo(もと北海道国際航空)とスカイネットアジア航空(現在のソラシドエア)でとられているものであった。
座席を購入してANA便として販売するというコードシェアは、自社の機材・乗員を使うことなく便数(特に羽田の発着枠)を拡大⇒ANAの路線便数基盤を拡げることである。
これは対JAL競争力や市場支配力強化に有効なものであった。
また提携会社の予約販売をANAのシステムに取り込むことは、単なる業務システムの統合以上の効果を得られるものである。 提携会社への影響力強化やLCCの流れに影響されかねない国内線の運賃秩序(特に羽田を基点とした路線)の維持にも役立っていると考えられる。
④ 再建後のSFJは路線拡大には慎重で、搭乗率を上げることで収益性を高めていった。
⑤ こうして収益基盤が安定したSFJは、2018年度下期に再び国際線に進出した。
しかしながら現時点では収益性の低下を招いている。
3. 数字データで見るSFJの業績推移;
① 売上高と営業利益の推移(単位;億円)
・ 2011⇒2013年度; 売上高は規模拡大で急増(226↗330億円)したが、大幅な赤字(▲30億円)に転落。
・ ⇒2016年度; ANAへの座席販売を増やし(57↗107億円)、自社販売を圧縮(274↘241億円)、以後横這い推移。
・ ⇒2018年度; 再び事業規模を拡大、自社販売収入は2018年度には5年前のレベルを超えた(277億円)が、国際線の影響で大幅減益(29↘13億円)。
・ 2019年度予測; 増機/国際線通年化や路線拡大で売上高は更に増すが、利益は小幅減少の見込み。
② 機材数と便数(1日当り往復)の推移
・ 機材数; 2011年度の6機⇒2013年度は11機まで増えたが、2014年度には9機に縮小、その後徐々に増機、2018年度に12機となり、2019年度は13機を予定。
・ 便数; 羽田路線は増枠配分を受けて2012年度以降27往復(/日)で推移している。 収支悪化をもたらした釜山線は2年で、関西=福岡線は就航1年で廃止。
羽田以外の国内線は現在中部=福岡と2017年に就航した北九州=沖縄線。
2018年10月には再び国際線(中部/北九州=台北)に就航した。
③ 年間便数と旅客数/旅客㌔の推移
・ 年間便数; 2013年度をピークに2016年度までは微減、2017~18で再び増加。
・ 年間旅客数; 2013年度172万人を記録したが、2015年度には132万人まで減少。その後徐々に増加しているが、ピークの規模には達していない(2018年度165万人)。
・ 年間旅客㌔; 旅客数とほぼ同傾向ながら、2018年度は2013年度の規模を超えた。
2013年度は近距離路線が多かった(関西=福岡、北九州=釜山)が、2018年度は長距離路線(那覇や台北への路線)が多かったことによる。
④ 旅客単価/座席コスト、搭乗率/BEの推移
・ 旅客㌔単価と座席㌔コスト(千㌔当り);
定期旅客収入(除ANAへの座席販売収入)を旅客㌔で除した旅客㌔単価(千㌔当り)は17000円前後で推移している。 2013~14年度は低め、2015年度に上昇したが2018年度は再び低下して17000円を割り込んだ。
営業利益は自販の定期旅客収入から発生していると仮定して算出した座席㌔コストは
ほぼ11000~12000円で推移しているが、2013年度と2018年度は高めの約12000円レベルとなっている。
・ 搭乗率とBE(ブレークイーブン);
搭乗率は2015年度までは60%台後半であったが、2016年度以降は70%台半ばを維持している。
BEは、2013年度には74%に跳ね上がったがその後62%まで低下した。
2018年度は再び70%を超えている。 2013/2018年度は収入単価が低下し、座席コストが上昇したためである。
4. 数字データで見るSFJの経営再建とANAとの関係;
① ANAへの販売座席数(/便)の推移
SFJ機材の座席数150席のうち、ANAに販売した座席数と自社使用分を概算で表したのが下図である。 2014年度以降は平均して60席近くがANAに販売され、自社使用は90席強で推移している。
販売座席分の原価がANAからの収入で賄われているとみれば、SFJ自体は「90席余りを扱う商売」(採算を取りやすくなった)とも言えよう。
なお1便当りの平均旅客数は、最近3か年は70人程度で推移している。
(自社席数の多い2013年度は78人であった。)
また最近3か年の平均搭乗率も75%程度で推移している。
② 定期旅客以外の収入の推移
2015年以降、貨物収入と付帯事業収入の規模が縮小している。
これは再建策の一環として、人手を要する貨物や他社便ハンドリングなどの人員を合理化
した結果と考えられる。
③ 一般従業員数、ANAとの取引額の推移
・2013~14年度に大幅な人員削減が行われ、代わりにANAへの空港ハンドリング委託料が増加(現在SFJが自社で旅客ハンドリングしている空港は北九州と羽田の一部)。
ANAからの出向者受入れ人件費が増加している。
・2013年度以降航空券精算費用が発生し、予約システム利用料が増加している。
・SFJには収入金の大部分(旅客収入等)がANA経由で入っている。
・2014年度以降は航空燃油をANAから調達(ANAがSFJも含めてまとめ買い)している。
SFJの事業は、ANAとの強い提携関係による安定的、効率的な体制で、羽田路線を中心とした国内の巨大な市場にゆとりある座席や個性的で良質なサービスを提供することで、比較的に高い収入単価と高い搭乗率を得て利益をあげる構造となっている。
今後は外国の会社と厳しい競争環境にある国際線(現在ANAとコードシェアはしていない)で、そのモデルがどのように効果を発揮していくかということが課題と考えられる。
以上