2022.10.12.
積極的にネットワーク展開しているLCCのPeachと、中堅の雄として高収益(コロナ前)体質にあった
スカイマーク(SKY)について、両社の2021年度実績と現在の路線便数をもとに比較考察しました。
※両社の公表データと国交省データをもとに一部推算も加えて分析しました。
1.収支構造
コロナ前は高収益であった両社も、2021年度はコロナの影響で大幅赤字であった。
旅客激減による収入減に、減便(変動費削減)や人件費等の固定費削減で対応したが、遙かに
及ばなかったためである。
この間にPeachはVanilla Airを統合して規模拡大している。
・ SKYは営業収益471億円で、営業損失は▲167億円、最終損益▲67億円であった。
・ Peachは営業収益387億円で、営業損失▲399億円、最終損益▲536億円であった。
・ Peachは事業費(機材費、燃油費、整備費等の運航費用や空港での費用など)が異常とも思える
ほど巨額であるが、機材・設備・人員等の低稼働による高負担のほか、特別な処理(*1)も含
まれていると思われる。
(*1)あくまでも想像だが、費用や「法人税等」の出方、資産の推移からは、以下2つの特殊処理が
あったと筆者はみている。
・100~200億円規模の損金否認の費用処理(例えば減損的なもの)
→ 赤字が大幅に膨らんだが税金減に繋がっていない。
・過去からの繰延税金の消却処理(140億円規模)
→ 資産が減少して、法人税等調整額が税金増になっている。
2.運航・輸送実績から
・ Peachは2019年にVanilla Airを吸収して規模が拡大した。
また多くの国際線用資源(機材・乗員等)を保有しているが、2021年度の国際線実績は
ほぼゼロで、その費用負担だけをもたらした。
・ SKYは実質的に国内線の会社である。
・ 機材;PeachはSKY(29機)の1.2倍にあたる35機を保有。
・ 便数・座席数;PeachはSKYの約85%であった。
・ 旅客数;PeachはSKYをやや上回る427万人を運んだ。
(=搭乗率がSKYを大きく上回ったことによる。)
・ なお平均距離は両社ほぼ同じ(1000km強)であり、距離要素を捨象して発着物量で比較
することに支障はないと考えられる。
※但し2018年のPeachは、関空基幹の比較的短距離の国内線と長距離の国際線の平均としての
1000km強であった。
3.機材と乗員数(2021年度末)
・ 機材; SKYはB737-800(177席)が29機。
PeachはA320型(180or188席)が34機とA321型(218席)1機、但し後者は
2021年に導入した中距離国際線(バンコク等)向けの機材である。
・ 乗務員; Peachは国際線運航や今後の国内線拡大のために、運航乗務員はSKYより2割多く、
客室乗務員は4割多い。
4.収益性指標
・ 機材稼働; 両社ともにコロナ減便のために機材稼働は落ち込んだが、特にPeachの落ち込みは
激しく、SKYの7割程度であった。
このため1機が稼ぐ営業収入も11億円と、SKY(16億円)を大きく下回った。
・ 1便当り収入; コロナ前(2018)は両社約170万円でほぼ並んでいた。
但し旅客単価はPeachが10900円とSKYより約1000円低く、旅客数は158人と
約10人多かった。
2021年度もその傾向は変わらず、便当り収入は両社約100万円であった。
・ 1便当り費用と営業損益; コロナ前(2018)の便当り費用は両社約160万円でほぼ同じで
あった。従って利益も10万円強でほぼ並んでいた。
しかしながら2021年度をみると、Peachは費用が収入の2倍と異常に高く、
▲105万円の赤字となったもの。 SKYは▲37万円の赤字であった。
・ 座席コスト;コロナ前(2018)は、Peachが約8900円、SKYが9100円であった。
2021年度は、SKYが約1000円低下して8000円弱となったが、政府の空港
使用料や燃料税の減免措置、そして人件費等のコスト削減の結果と思われる。
一方Peachの座席コストは2500円も上昇して約11500円であった。
減免措置やコスト削減はPeachもSKYと同じと思われ、定常状態ならば
8000円以下と思われる。
便当りで63万円、年間総額で200億円規模が、特殊な費用処理の影響を
受けていると思われる。
・ 搭乗率とB/E(損益分岐利用率);
搭乗率はコロナ前(2018)では、Peachが88%、SKYは83%であった。
他のFSC(フルサービス)各社に比べてかなり高いレベルである。
2021年度はPeachが62%、SKYが52%であった。
LCCは価格の操作で搭乗率を高めている(その帰結として平均収入単価も下がる)。
採算ラインを示すB/Eは、コロナ前ではPeachが82%、SKYが76%であった。
(注)搭乗率との差が利益の指標となる。 またB/Eは座席コスト÷旅客単価で算出され、
座席コストが低いほど、旅客単価が高いほど、B/Eは低く(採算が取り易く)なる。
2021年度では、SKYは大幅な座席コスト低下が効いてB/Eが70%に下がった。
PeachのB/E126%は満席でも大幅赤字というレベル→ここからも座席コストが不自然に
高いことがわかる。
5.旅客単価とその内訳(2021年度)
右図は2021年度の両社の旅客単価とその内訳(推算)
を示したものである。
収入÷旅客数で算出した旅客単価は、SKYが11313
円、Peachが9065円であり、
これが実質旅客単価に近いと言えよう(収入の一部に
貨物等も紛れていると思われるが)。
これには航空保険特別料金相当額(500円)が
含まれている。
LCCのPeachには様々な付加料金による収入(*2)
があるが、2021年度は1人当りで1935円(推算値)
となっている。
搭乗率を上げるための価格施策によって低運賃客を多く獲得したが、付加料金をしっかり徴収している形が伺える。
(*2)付加料金の例(Peach)
支払手数料(クレジットカード払い); 640円
座席指定料; 無料~1890円
手荷物料金(1個目); 無料~3050円
変更手数料; 無料~5700円
このほか飲食や機内販売、保険やレンタカー予約の手数料等がある。
6.両社の現在の国内線路線便数(2022年10月1日ベース)
下図は現在の国内線の路線便数を、空港発着(発着両空港でカウント)で表したものである。
(注)ここでは羽田/成田、伊丹/関西/神戸、及び札幌(新千歳)、中部、福岡、那覇の
11空港を「幹線空港」とし、その他を「ローカル空港」としている。
(Peach)国内16地点に就航し、1日の便数は82便。 うち幹線空港間は51便。
ローカルは11地点に就航、全て幹線空港と結ぶ路線で全31便。
(SKY) 国内12地点に就航し、1日の便数は75便。
うち幹線空港間は49便、特に羽田基点の便が33と多いのが目立っている。
ローカルは6地点に就航、うち幹線空港と結ぶのは25便で、ローカル空港相互は1便。
(PeachとSKYの比較)路線便数の効率はSKYがいい。
SKYは過半の41便が巨大市場の羽田路線であり、便の効率もいい。
(1地点当り便数;SKY12.5便、Peach10.25便)
但し発着枠の制約から、便数拡大は羽田以外の路線に限られる。
Peachは羽田に比べてハンデのある成田発着市場が基幹であり、カバーしている市場で見る限り、収益性の点でSKYに劣るといえよう。
但し、便数拡大の可能性ではSKYより拓けているといえよう。
(参考)コロナ前の国際線実績
・ Peachの2018年度国際線路線便数は下表のとおり、1日平均で20便であった。
コロナ影響からの回復に伴って国際線運航も徐々に拡がっていくであろう。
運航距離の長い新機材(A321)の導入が始まった。
特に中距離路線(バンコク等)への拡大が期待される。
・ SKYはかつて成田=サイパンに定期便を就航していた。
まずはその復便が目標となると思われる。
(筆者所感)Peachの2021年度の営業損益は、特殊要素を除去すれば、実質▲200億円程度と
思われる。
Peachはコロナの影響から脱却(国内線、国際線)すれば、再び高収益な事業運営に戻ると
思われる。
羽田発着路線の多い国内線キャリアーのSKYは、それより早く収益性を回復するのではないか。
以上(赤井)