2020.2.2.
数字で読み解くJALの決算
今期は? 年間見通しは? 資金状況は?
この度公表されたJALグループの第3四半期決算について、その数値を読み解いてみました。
JALは今期より会計基準を変更しています(日本基準→IFRS;国際会計基準)。
体系が大幅に変わったため、まず前年値(収支)や期首値(財務)をIFRSに組み替え、今期実績は新基準で発表されています。
ここではまずその基準変更について大まかに触れ、そののち今期の業績を分析します。
(注) IFRSについて十分知悉していないため、変更内容の説明は必ずしも正確ではないかも
しれません。
また分析はあくまでも個人的知見にもとづくものであることをご了承下さい。
なお数値は「分かり易さ」を重視して、括りを大幅に簡略化していることから、部分的には「厳密さ」に欠ける点があることもご承知下さい。
(要旨)
① 収益性; 今期の売上げは約3600億円で前年の1/3弱、継続的事業の収益性を表わす「財務・法人所得税前損益」は約▲3000億円の赤字。
② 年間見通し; 「財・法税前損益、」は▲4200億円、最終損益は▲3000億円の赤字。
③ 収入の事業内訳; 国際旅客は極度に落ち込んだまま、国内旅客は回復基調を示してきたが年明けに感染拡大→緊急事態宣言で回復にブレーキがかかった。
一方国際貨物は好調。
④ 財務状況; 借入金と増資で4000億円の資金を調達。
赤字によって資金が流出したが、期末の手元資金も積み上がって4550億円になった。
一方で借入金残高(リースを含む有利子負債)は約5000億円となった。
⑤ 上記について解析したのち、今後の資金状況について「個人的に」展望した。
1. 収益性;
下表は前年(Q1-Q3)の収支実績を日本基準/IFRSで表示したあと、今四半期期(累計)の実績と今年度の年間予測値を示したものです。
1) 日本基準とIFRS; 変更は多岐にわたるが、金額的に大きさからは以下の2点に集約
できよう。
・ マイレージプログラムの「特典航空券」旅客を有償旅客とし、その収入を「旅客収入」とした。(従来は無償旅客で「その他の収入」に分類)
逆に外国他社運航のコードシェア席で稼ぐ分は、輸送実績および国際旅客収入から除外
(その他の収入に移行)されている。
・ そのほかも様々な科目組替え(収入/費用間組替えを含む)がなされているが、最終損益としては▲15億円減少する程度である。
2) 今期の実績(前年同期対比);
・ 今期の売上げ(売上収益)は3,565億円で、これは前年同期の32%にすぎない。
・ 営業費用は、運航規模の縮小や経費削減により前年の65%であった。
・ 減収の規模が余りに大きく、営業損益は▲2895億円の赤字となった。
・ それに非連結関連会社損益の持ち分法相当額や投資から生じる損益を加味した
「財務・法人所得税前利益」は▲2942億円の赤字であった。
・ それに財務収支や赤字による税金の戻り(含猶予分)を加味した結果、最終損益
(親会社帰属)は▲2127億円の赤字であった。
・ 事業別に収入をみると、国際旅客はわずか189億円でこれは前年の5%にすぎない。
国内旅客は前年の32%。 一方貨物郵便は好調で、前年を上回る909億円であった。
「その他」収入は、他社の地上業務の受託、旅行販売等から発生するものであるが、
いずれも航空需要との相関性が高く、減収(前年の51%)であった。
【第3四半期の収支状況と年間予測】
(注)末尾処理(ここでは四捨五入)の関係で、他の資料とズレがある箇所もあります。
2. 年間見通し; Q4は厳しいと予測
上表および下の四半期別推移表をご覧下さい。
・ 前回(上期)の発表値(最悪▲2700億円の最終赤字)を下方修正した。
・ 年間予測で、売上収益は7400億円、「財務・法人所得税前利益」(以後「財法税前利益」と略称する)は▲4200億円の赤字、財務収支や税金調整も含んだ最終損益でも▲3000億円の赤字としている。
・ Q4の予想値(年間見通し値とQ3までの実績の差額)をみると、
1035億円の売上げで、▲1258億円の財法税前損失ということになる。
第一次緊急事態宣言で極度に収支が悪化したQ1(▲1310億円)に近いレベルの赤字ということになる。 現時点での予約に基づく見通しということで、それくらい厳しい見通しにせざるを得ないのであろう。
【売上げ、財法税前利益等の四半期別推移】
四半期ごとに、売上収益と営業費用等(売上収益と財法税前利益の差額)を前年同期対比の率(%)で※、また財法税前利益を金額と利益率でみたもの。
(※)但しQ4は前年Q1~Q3の平均に対する率である。
3. 各事業収入の内訳; 国際旅客は悲惨、国内旅客はQ4に再び落込み、貨物は好調
下表は各事業に係わる指標を示したものです。
まず日本基準からIFRSへの移行の影響をみたあと、今期の実績を前年と比較します。
① 国際旅客;
1)基準変更により特典航空券旅客数が増え、他方コードシェアにより外国社の座席で運ぶ旅客が除外された。 結果として旅客数は8%、収入は2%増えた。
座席㌔が▲1%減っているのは外国社から購入した分の座席㌔であろう。
結果として前年(Q1-3)の搭乗率は+8ポイント跳ね上がって89%となったが、これが実態ということである。
2)国際旅客の今期の供給(座席㌔)は前年の18%であるが、需要(旅客㌔)は4%に過ぎず、搭乗率は20%と超低レベルである。 これでは燃油費等の運航費用も回収できないほどであり、 今も余り改善されていない。
ほかにLCC(ZIPAIR)の国際旅客収入(17百万円)はその他の収入に含まれている。
② 国内旅客; 。
1)基準変更により前年(Q1-Q3)の旅客数は+7%上乗せとなり、収入も3%増えた。
搭乗率も+6ポイント上昇して80%となった。
2)今期の供給(座席㌔)は前年の56%であり、需要(座席㌔)は34%であった。
搭乗率48%は前年より▲32ポイントも低い。
Q1→Q3と徐々に供給を回復させてきた(36→61→71%)が、需要も回復し(13→34→53%)、搭乗率も改善してきた。
しかしQ4は予約の現状からはQ1に近いレベルまで落ち込むという予想であろう。
【国際旅客、国内旅客の指標2】
【国際旅客、国内旅客指標の四半期別推移】
需要(旅客㌔)と供給(座席㌔)は前年対比の比率(%)で、
搭乗率は実数で表示。
③ 貨物(含郵便);
旅客便の運休で、需給ひっ迫の国際貨物は運賃が高いレベルに張り付き、増収が続いている。
下表はJALの貨物郵便に係わる指標を示したものです。
国際貨物は、旅客機の貨物専用運航の効果で各四半期とも前年を大幅に上回る収入を稼いでおり、特にQ3は前年の約1.76倍となった。 この情勢が今後も続く模様。
国内貨物も小幅ながら前年を上回っている。
【貨物収入の推移】
4. 財務と資金の状況; 借入と増資で4000億円を調達
①財務状況
1) 下表は日本基準→IFRSによって、期首に貸借対照表上どんな組替えが行われたかを、極めて大まかに示したものです。
・ リース契約の約860億円が、資産(有形固定資産)、負債(有利子負債)の両方に
新たに反映された。
・ マイレージプログラムが新たに「契約負債」(期首総額2518億円)として位置づけられた。
旧「前受金」からの移行のほか、他の負債や利益剰余金からも振替えられ、更に200億円余りが評価で額増となった。
・ 退職給付債務の評価差額(-615億円)が、利益剰余金に移行された。
・ 繰延税金資産が増額(+377億円)された。 他方負債・純資産でも再評価によって増減があった。
【日本基準→IFRSへの組替え(期首)】
増減額の内訳
2) 下表の左半分は、期首の貸借対照表科目について日本基準→IFRSへの組替え(上記で説明)を、右半分は、期中の変化を示したものです。
《 主な増減要素 》
借入金増等で負債が約1500億円増加、手元資金増等で資産が約1500億円増加、
純資産は赤字と増資等が見合いでほぼイーブン。
(資産) 手元資金は+1258億円増えて、4550億円となった。
有形無形固定資産は、新機材増があったが、償却費や減損による減が大きく全体では▲317億円減って11,479億円となった。
繰延税金資産(赤字→先で税軽減)等で約600億円増加。
(負債) 借入金残高が+2172億円積み上がって、4946億円となった。
契約負債が約400億円強減少、また事業規模減等により、未払債務も減少。
(純資産) 増資1830億円をした一方で、赤字により▲2130億円減少、
他に期末評価によるプラスが約300億円。
(融資枠) 期中にコミットメントラインを引き上げ、3000億円となった。
【財務状況(期首→12月末への変化)】
② 資金の状況;
下図は、今期の資金の流れをごく大まかに示したものです。
・ 新規に2323億円の借入れを行い、既存借入金の返済を行ったことで、
借入金は2172億円増加した。
・ これに増資(1830億円)をあわせ、総調達額は4000億円となった。
・ 2744億円の外部流出があり、手元の現預金には1258億円が積みあがった。
・ 外部流出は、主に事業(営業活動)による赤字が約1800億円※、
そして設備投資による支出730億円によるものである。
(※)赤字額は3000億円規模であるが、減価償却費など支払を伴わないものを相殺
すると、営業活動による資金の流出は約1800億円ということになる。
【資金の流れ(簡略図)】
5. 今後の資金展望(個人的試算)
今年度末(2021.3月)、および来年度末(2022.3月)の資金状況を展望してみた。
先にANAで行ったのと同じような考え方で、仮定を重ねての試算であり、精度よりも考え方を参考として頂けたら幸いです。
① 今年度末(2021.3月)の資金状況
・ 営業活動(赤字)による流出、設備投資による流出を、Q1~Q3並みの実績
(3か月 分としてその1/3)で見込んだ。
・ 既存借入金の返済として、12月末の1年内返済借入金の1/4(3か月分)を見込
んだ。
・ JALは期末残高を「3700億円」と見込んでいることから、上記の仮定より支出が
実際には140億円程度少なくなると思われる。
(ほかにコミットメント枠が3000億円)
② 来期末(2022.3月末)の資金状況
・ コロナの影響がなお続き、赤字の規模が今期の半分程度と置いた。
・ 設備投資額も今期の半分程度(投資圧縮や機材売却等による資金収入も考慮)
とした。
・ 既存借入金の返済規模は、今12月末と同規模に置いた。
・ その他の要素は見込まず。
・ 以上の結果によると、来期末の手元資金は1400億円規模となる。
(コミットメント枠を考慮すれば総額4400億円規模となる。)
ワクチン効果等が功を奏すれば急激な回復も考えられるので、これはやや悲観目
かもしれない。
【今後の資金展望(仮定による試算)】
この後ANA/JALの比較を行いたい。
以上
赤井奉久