2020.10.23.
米国主要3社の収益力と財務力をみる
2020年第3四半期(1~9月)
米国主要3社(※1)の第3四半期決算が出揃ったので、収益力・財務力の視点で整理しました。
まず添付の表「米国主要3社の財務指標比較」をご覧下さい。
金額はUSD=108円(※2)で円に換算して表示しています。
その表をもとに以下簡単に解説します。
参考表示の表1,表2は添付表の中から抜粋した項目です。
(※1) Delta Air Lines(DL)、United Airlines(UA)、American Airlines(AA)
(※2) 過去半年の当方の分析レポートで採用したレートと整合させたものです。
(はじめに)
2020年度の収支は四半期ごとにわけ、その累計値(Q1~Q3を2019年同期と比較した。
損益は4段階に整理して表示した。 即ち、
・ 事業損益; 収入から通常の費用(含金利負担)を控除した、いわば「ありのまま収支」
・ 調整後損益; それに政府補助金を加味した「実際の収支」
・ 税前損益; それから「リストラ費用」を控除した税前損益
・ 当期損益; 更に税金要素を控除した当期の最終損益
(注)アメリカン航空のQ3の補助金の一部は「事業損益」に潜り込んでいる可能性
がある。
Q1(1~3月)はコロナの影響が部分的であった。
Q2(4~6月)はコロナの影響が最大になった時期であった。
Q3(7~9月)は国内線を中心に小幅ながら回復がみられた時期であった。
1. 収益力をみる
① 3社の年間収入規模(2019年営業収益)は5兆円、総資産も6兆円規模(2019期末)で
ほぼ横並びである。
一方収益性(2019年Q3累計の税前利益)は、DL→UA→AAの順である。
2019期末(=2020期首)の純資産額(下記⑤参照)でも、留保利益を反映して同じ順となっており、過去の収益性も総じてこの順であったことを物語っている。
② 営業収益と旅客㌔(RPK)について、Q3とQ3累計値を前年と比較すると、
Q3値は前年の2割程度(収入は貨物等旅客以外の要素を含むため、旅客だけのRPKに
比べて減少の規模がややゆるやか)である。
累計値は前年比3割台となっている。
3社の各指標について、対前年で減少が少ない順では、AA→DL→UAとなっている。
これは事業に占める国内線割合の大きさの順と一致し、コロナの影響(回復)が反映
されているといえよう。
③ 調整後損失はQ3、Q3累計値ともに、DL→UA→AAの順で大きくなっている。
(当然ながら事業損益もこれと同順である。)
④ リストラ費用はDLが圧倒的に大きい。
LATAMへの投資額の減損(Q2に実施)等、コロナ影響での資産棄損が大きかったこともあるが、不良要素の除却に熱心ともいえよう。
Q3の巨額リストラ費用は、主に除却予定機材(383機)の減損※による。
※総額▲4781億円、最も大きいのはB777の▲1555億円。
⑤ 当期損失(Q1~Q3累計)は1兆円を超すリストラ費用の関係でDLが最も大きい。
この損失により、DL、UAは純資産が大幅に減少、AAは債務超過が膨らんだ。
なおこの間UAとAAは増資を行った分だけ減少幅が圧縮されている。
【(表1)収益力を示す指標(添付表からの抜粋)】
2. 財務力をみる
➅ 各社ともに手元の資金を大幅に拡大、特にDLは2兆円も積み上げた。
9月末の残高は、DL2.3兆円、UA1.5兆円、AAは9500億円規模になっている。
その額を収入額(2019年)に換算すると、DLは5.5ヵ月分、UAは3.8ヵ月分、AAは2.3ヵ月分ということになる。
⑦ 「借入金(含リース債務)」の残高も大きく膨らんだ。
DLは3.8兆円、UAは3.5兆円、AAは4.4兆円である。
その額を収入に換算すると、DLとUAは9.1ヵ月分、AAは10.8ヵ月分である。
「借入金-現預金」の差は、DLが3.6ヵ月分、UAが5.3ヵ月分、AAが8.5ヵ月分となり、資金的にはDL→UA→AAの順で厳しく、特にAAが厳しいということになる。
⑧ 期中の手元資金(現預金)の増加を、要素(理論値)別に拾ったのが⑧である。
(参考)決算資料からDLの長期借入金(3.66兆円)について、金利負担を大雑把に試算
すると「平均4.5%程度」となる。
即ち年間の金利負担は1600億円規模ということになる。
その負担と、年々の返済額を考慮すると、コロナが航空会社に及ぼしている影響
は財務面だけでみても尋常ではないことがわかる。
(AAはDLよりも更に厳しいということになる。)
【(表2)財務力を示す指標(添付表からの抜粋)】
以上
<別表>
米国主要3社の財務指標比較
2020年第3四半期(1~9月)
3社公表データをもとに整理、金額はUSD=108円で円換算