2020.12.8
国内線上期の実績をひもとく
(大手2社、中堅4社のコロナ禍対応)
コロナの影響で、国際線の旅客流動は、回復への微かな動きはあるものの、実質的には依然停滞した状態が継続している。 一方国内線は、GO TOキャンペーンに刺激されて夏場には回復への大きな流れが見られたが、感染の第2波、第3波によって今一つ勢いに欠ける状態が続いている。
その間資金の流出が続き、各社ともに手元資金の確保に努めている。
ここでは国内線上期の実績から、ANA、JAL、SKYおよび中堅3社(ADO、ソラシド、SFJ)の状況を読み解いていく。
(注)数値は各社公表のデータをもとに整理加工したものである。
1. 6社の上期供給と旅客の実績(対前年比率)
下グラフは6社の4~9月の国内線供給規模※(前年同月対比;%)を月別にみたものである。
(※)ANA/JALは供給座席数、他の4社は運航便数
① ANA;供給を最も大幅に絞り込んでいる。
減便によって運航費用の削減(キャッシュ流出回避)を図ったことが伺える。
他方では中堅3社をはじめとするコードシェア便(ほかにIBEXとORC)で供給座席を
補っている。
コードシェア座席の活用は、ANAの自社便より低コストと思われること、また強い提携関係に
ある会社の収益事情も配慮してのことと思われる。
② JAL; ANAと同様の動きであるが、供給減の規模はANAよりやや少ない。
コードシェア(FDA、AMX)の規模が小さいことから、自社便で供給を確保するために、
供給絞り込みはANAより小小規模だったと考えられる。
③ SKY; 供給の絞り込みと復便の振幅が大きい。
旅客流動に合わせて供給規模を柔軟に変化させていることが伺える。
5月の大幅減便は、手元資金の残高が減少して特に収益性に敏感にならざるを得な
くなった時期と思われる。
資金繰りに目途がついた8月以降は、供給の復元にも積極的で、10月には宮古島への新路線を開設した(羽田/神戸/那覇から)。
④ 中堅3社; 減便の規模は他の3社に比べて小さい。
ANAとのコードシェアの便数と座席の確保を図った結果、減便は上述3社より小規模になった
と思われる。
【国内線供給規模の月別推移】(対前年率;%)
ANA/JALは席数、他の4社は便数
2. 便数・座席数・旅客数(前年比)
下グラフは6社の上期供給量(便数/座席数)と旅客数を対前年比率で示したものである。
① ANA(自社便); 供給座席は前年の35%(▲65%減)、旅客数は19%(▲81%減)。
② JAL; 前年の48%の座席で、26%の旅客を獲得。
③ SKY; 前年の52%の座席で、27%の旅客を獲得。
④
中堅3社; 便数は前年の約6割であるが、ANAへの販売座席を除いた自社座席は
前年の42%(SFJ)~58%(ソラシド)であり、いずれも便数規模を下回っている。
便数減/席数減の差はANAへのコードシェア割合が上昇したことによる(特にSFJの差が
大きい)。
自社旅客数は前年の19%(ADO)~22%(ソラシド)と低調であった。
【6社の上期国内線供給規模と旅客規模】(対前年率;%)
3. 搭乗率(前年対比)
下グラフは6社の上期の搭乗率(前年紺・当年紫の折線グラフ、落差=オレンジの棒グラフ)を示した
ものである。
① ANA/JAL; ANAの搭乗率は69→36%と低下(落差▲33P)、JALは73→40%(▲34P)。
前年より大幅に落ち込んだが、その落下幅は他の4社より小さい。
収益性の低下(=運航費用によるキャッシュアウト)に配慮して、空席を極力減らすよう配慮
した結果と考えられる(特にANA)。
② SKY; 搭乗率は前年より大幅に低下したものの当上期の43%は6社中では最も高い。
供給を旅客流動に柔軟に対応させて搭乗率(≒収益性)の確保を狙った結果と思われ
る。
③ 中堅3社; 自社販売部分の搭乗率落下幅は39(SFJ)~49(ADO)ポイントと大幅であり、特にADOとソラシドの搭乗率は30%を割り込んでいる。
ANAのコードシェア座席とのセットで供給の最適化を図った結果、自社の搭乗率の低下幅
が大きくなったものと考えられる。
【6社の上期国内線搭乗率】(対前年率;%)
《参考1》 ANAの国内線コードシェア旅客
下表はANAの上期国内線旅客数(前年対比)を示したものである。
当上期の自社便旅客は385万人で前年の19%(▲81%減)であるのに対し
て、コードシェア便旅客※は82万人で前年の35%(▲65%減)であり、当上期
全旅客数(467万人)の18%を占めている。
(※中堅3社のほかIBEX等とのコードシェア便も含む推定値。)
ANAはコードシェアを合わせた旅客数(467万人)で、JALを上回っていること
がわかる。
《参考2》ANAの中堅会社への出資比率
ANAは中堅4社に対して13~18%を出資しているほか、受委託契約や人事面
でも密接な関係にある。
ADO以下3社とはコードシェアを行い、予約システムもANAのものを使用している。
・SKY;16.5%;インテグラル(50.1%)、日本政策投資銀行(DBJ)系
(33.4%)に次ぐ。
・ADO;13.61%;DBJ(32.49%)に次ぐ。
・ソラシド;17.03%;DBJ(19.24%)に次ぎ、宮崎交通と同数。
・SFJ;17.96%;筆頭株主
4. 中堅会社の上期収支・財務状況
(資金の状況)
① SKY;期首にあった手元資金126億円は一旦底をつきかけたものの、主要4銀行から
の借入と追加の融資枠(合計500億円規模)で今は落ち着いている。
② ADO;赤字等による資金流出を、金融機関及び関係会社からの借入金(計+94億円)や営業未払金の増(+21億円;支払時期ずれ?)等でカバーして、上期末の手元資金はほぼ期首に近い規模の174億円を維持している。
③ ソラシド; 大幅な借入金増(+147億円)によって赤字等による資金流出を補い、期末の手元資金は153億円となった。
なおSFJの収支・財務状況は別にレポートする予定である。
【ADOとソラシドの財務状況】
(ADO、ソラシドの収支状況)
① 両社ともに収入が営業費用のほぼ半分で、大幅な赤字となった。
(ADOは▲71億円の営業損失、ソラシドは▲68億円)
② 1便当りでみても、ADOは114万円の収入で▲103万円の赤字、
ソラシドは99万円の収入で▲83万円の赤字であった。
ADOの搭乗率は29%、ソラシドのそれは26%。
【ADOとソラシドの上期収支状況】
(さいごに) 国内線で中堅3社の方向は?
コロナの影響を受けた日本の航空業界で、国内線は収益源としてますます貴重な役割を占めることとなり、ANA/JALの2極体制は更に強まろう。
そんな国内線でANAはLCCのPeachに新たな役割を課し拡大強化している。
JALも出資拡大によりLCCのJetstar-Japanへの影響力を強化しようとしている。
また大手とLCCの狭間で、SKYは第3極の役割維持と再上場を狙っている。
中堅3社は、羽田の発着枠を得て、これまで第3極的機能を果たす一方で、ANAの別動部隊?とも思えるような役割も果たしてきた。 コロナの影響を受けた今はANAへの依存度が一層高まっていて、前者の機能は薄まってきていると思われる。
その在り方に改めて目を向ける時期にきているのではなかろうか。
以上