2020.8.31
コロナの影響を受けて(4~6月)
シンガポール航空の現状
旅客▲99.6%、貨物収入1.35倍
シンガポール航空(SQ)は、政府系投資会社であるセマテクHDが55%強※の株式を持つ航空会社である。(※孫会社NAPIERの保有分を含む)
全便国際線であることからコロナの影響をもろに受けて収支・資金状況は苦しいが、他方では
政府による支援も手厚い。
その状況をSQのIR情報等をもとに、一部推算を交えつつ概観したい。
なお金額は円貨で表示している(SGD=77.43円で換算)。
1. SQの事業構造; 航空3ブランド+整備事業等
1)SQグループの収入規模は1.23兆円、営業利益は46億円であった。
(2019.4~2020.3月実績による。実績には3月のコロナ影響が含まれている)
2)シンガポール航空(本体); 中大型機によって中長距離旅客便、および貨物便を運航。
収入は1.0兆円(営業利益228億円)。
3)SilkAir; 小型機によって短距離線を運営するフル・サービス会社。
収入は688億円(営業利益▲87億円)。
4)Scoot; SQグループのLCCとして、中型機及び小型機で中距離、短距離線を運営。
小型機x短距離のLCC事業は「Tiger Air」としてスタートしたが、のちScootに統合
された。 収入は1258億円(営業利益▲153億円)。
5)整備事業; 整備業務の受託事業。
他の付帯的事業も含め、外部からの収入は400億円強(営業利益は58億円)。
【FY2019(2019.4~2020.3)の実績】
6)SQ本体の旅客便は、年間約21百万人を扱い、売上は約8000億円。
平均距離は約5000kmで、旅客単価は約38,600円(㌔単価は7.7円)である。
7)フルサービスの短距離便(平均距離約1800km)を扱うSilkAirは、年間4.4百万人を扱い、
旅客単価は約15,500円(㌔単価は8.3円)である。
8)LCCとして中距離線と短距離線を扱う(平均距離約2700km)Scootは約1000万人を
運び、旅客単価は約12,000円(㌔単価は4.3円)である。
9)SQの貨物事業は、1511億円の収入で、営業利益142億円を稼ぐ。
㌧㌔単価は23.6円
【FY2019の旅客、貨物の指標】
2. SQの収支の現状; 旅客数はほぼ壊滅の▲99.6%、貨物収入は1.35倍に増加
2019年度(2019.4~2020.3)と2020.Q1(4~6月)の収支実績は下表のとおり。
1) 2019年度はQ3まで好調で、営業利益も667億円を稼いでいた。
年明けにコロナ禍で急変、Q4には▲621億円の営業損失となった。
旅客減収(▲702億円;主に3月)に加えて、燃油のヘッジ損(▲550億円)を計上した
ことにもよる。
2)2020.Q1になるとコロナの影響は激甚であった。
旅客数はわずか38千人;前年比▲99.6%である。
供給量(ASK)も▲96%減としたものの、搭乗率は10%に落ち込んだ。
一方、旅客減便でBellyスペースが払底し、これに対し医療等の緊急貨物が増加。
貨物専用機を増便して、貨物収入は1.35倍(513億円)に増加した。
なおタイのLCC「Nok Scoot」が廃業(6月)したことにより、▲98億円を特別損失として
処理した。
【FY2019と2020Q1の収支実績】
3)貨物事業は大幅黒字となった。
旅客減便で貨物スペース(AvailableCargoTonKM)は前年の1/3 →そのスペースで前年の半分の貨物(RCTK)を運んだ。
単価は2.7倍に跳ね上がって(㌧㌔単価23→63円)、収入は1.35倍の513億円。
一方、旅客便のスペース減→ハンドリング減等で費用は前年の▲27%減。
これにより、営業利益は27→257億円とほぼ10倍になったもの。
【Q1の貨物実績】
(注)8/22のレポート(航空貨物の現状;運賃急騰で軒並み増収)の中で、SQの
貨物実績を「赤字」としていましたが、これは誤りでした。
ここで訂正してお詫びを申し上げます。
3. 財務状況; 借入金と増資で手元資金を積み増し
最近半年の財務、資金の推移は下表のとおり。
1)夏場以降の資金不足に備えて手元資金を積み上げている。
2019.12月末(1216億円)→2020.3月末(2078億円)→6月末(7413億円)
2)借入金も、7454億円→9125億円→9322億円と増加。
3)赤字で減失の純資産を、増資で補強。
9407億円→(▲赤字)→7212億円→(▲赤字+増資)→13,612億円
4. 手厚い政府からの支援; 資金支援と人件費補助など
島国シンガポールの交通インフラを担うSQに対し、政府の支援は手厚い。
1) 資金的支援;
・ 増資88億ドル(6814億円); 全額政府系投資会社(テマセクHD)が払込済。
・ 追加的に62億ドル(4800億円)の転換社債による支援を予定。
・ 17億㌦のコミットメントラインの更新と+5億㌦の積み増し。
・ 16.5億㌦の航空機ファイナンス支援
(注)SQは今後5ヵ年にわたり、各年50億ドル(3870億円)程度の設備投資を予定
している。
2) 人件費等への支援
・ 従業員給与の75%補助。
・ 着陸料、賃料料の減免とグラハン、貨物取扱費用への補助。
以上