2020.7.18
コロナ禍直撃で資金繰りの危機?
エアアジアの経営・財務状況を読み解く
(その4 グループ内各LCCの収支)
エアアジア分析レポートの4段目(最終)です。
ここではエアアジア・グループ内のLCC6社とエアアジアXの収益性をみます。
1. エアアジアグループ6社の収益性(2019実績)
① 6社を概観する;
1)エアアジアGはA320型機(180席)、A320型機(186席)を保有している。
2)各社の事業規模をみると、最も大きいのはMAA(マレーシア)で、97機を保有し1887億円の収入をあげている。
TAA(タイ)が続き、そのあとIAA(インドネシア)、PAA(フィリピン)、AAI(インド)が収入500~600億円規模でほぼ並ぶ。AAJ(日本)は3機で40億円の収入。
3)営業利益を上げているのはMAAとPAAの2社のみ。
赤字4社のうち、その規模ではAAI(インド)が大きい。
またAAJ(日本)の赤字額は収入を上回っている(即ち費用が収入の倍以上)。
4)平均路線距離は1000km強でほぼ並び、機材稼働は5.2便/日(IAA)~6.5便/日(MAA)の幅内にある(AAJを除く;以下同様)。
換言すれば、MAAの機材は毎日7862kmを飛び、AAIの機材は6002kmを飛んでいるということである。
但し、実際はStanby機があるため、実稼動機に限ればこれより高い数値となる。
5)便当りの収入は826千円(MAA)~1100千円(PAA)の幅内にあり、
便当り費用は771(MAA)~1061千円(PAA)の幅内にある。
6)旅客単価は5118千円(AAI)~6945千円(PAA)とかなり広い幅内にあり、
座席コストは4232(MAA)~5894千円(PAA)の幅内にある。
7)搭乗率は84%(MAA、IAA)~89%(AAI)の幅内にある。
B/E(損益分岐利用率)はMAAは80%を切っているが、AAIは100%超(満席でも赤字)である。
【エアアジアグループ各社の収益性(2019年)】 (円換算額※)
※RM=25.12円、IDR=7.37/1000円、PHP=2.17円、THB=3.44円、INR=1.43円
① LCC各社の収益性をみる;
1) MAA(マレーシア); 便当り利益は54千円と最も大きい
旅客単価は5383円と低めで搭乗率も84%とLCCとしては高くはない。
その結果便収入は826千円と6社内では最低である。
しかし座席コストが4232円と破格の低さ→便費用が最安の771千円。
コストの安さが利益を生んでいる。
(注) グループ他社へのリース機収入が混入している可能性がある。
もしそうなら(推算で除外すると)収支トントン程度となる。
2) IAA(インドネシア); 便当り利益は▲26千円の赤字
単価6226円の旅客が150人(搭乗率84%)で便収入は937千円。
座席コスト5352円→便費用は963千円で収入より多い。
コストの高さには機材稼働の低さ(5.2便/日)も絡んでいると思われる。
3)PAA(フィリピン); 高い旅客単価x高搭乗率で、便当り利益は39千円の黒字
6945円と高単価の旅客が158人(搭乗率88%)で便収入は1100千円。
座席コストも5894円と高い→便費用も1061千円と5社中最も高いが、収入の
多さがそれを上回って黒字となっている。
4) TAA(タイ);旅客単価x搭乗率がもう一息で、便当り利益は▲21千円の赤字
機材稼働は6.2便/日でそこそこのレベル。
単価6240円の旅客が153人(搭乗率85%)で便収入は957千円。
座席コスト5414円→便費用978千円で収入より多い。
機材稼働、旅客単価、搭乗率、座席コストがいずれもそこそこレベルにあるが、
黒字化には何かを強くする必要がある。
5) AAI(インド); 旅客単価が低く、便当り利益は▲149千円の大幅赤字
旅客単価が5118円と低いために、162人の旅客(89%)でも便収入は832千円。
座席コストは旅客単価を上回る5359円。 よって満席にしても赤字の状態。
既に28機も投入し、規模拡大中であるが、旅客単価を上げない限り、赤字が膨らむだけと思われる。
6)AAJ(日本); 規模が整わず、収入は費用の半分も稼げていない
日本の旅客単価(8247円)は他の5社に比べて格段に高いが、コストも高いため、黒字化には骨がおれる。 事業規模が整わないと採算化は難しかろう。
《参考》 AirAsiaXはエアアジアグループのLCCと事業構造が異なる。
機材は中型のA330(377席)で、中長距離を事業領域としている。
旅客単価はエアアジア各社の約3倍、便収入は約5倍である。
機材稼働は、Stanby機を除き、2.0便(1往復)/日が規準となる。
2. エアアジアXの収益性(2016~2019実績推移)
① 収益性の推移をみる; 2017をピークに収益性は低下
1) 機材30→39機と拡大したが、収入が伴なわず赤字に転落。
これを2017/2019年の対比でみると;
2)収入単価が17677→16604円と低下、かつ搭乗率も82→81%と低下したため、便収入は5440→5081千円と大幅に落ち込んだ。
3)他方座席コストは14024→14774円と上昇して、便費用は5287→5555千円と増加。
便費用が、便収入を大きく上回るようになった。
4)機材稼働も1.7→1.4便/日と低下している。
5)89%にもなってしまったB/Eを改善する必要があり、そのためには旅客単価の向上は不可欠と思われる。
【エアアジアXの収益性推移】 (円換算額※)
② コストの推移をみる; 機材関連費用の増加が大きい
1) 2017→2019年に便費用は5287→5555千円と増加しているが、内訳をみると;
2) 燃油費や整備費が増える一方で、空港使用料、人件費、他の費用が減少し、これら
合計では+55千円(+1%)の増加となっている。
3)機材関連費用(償却費+リース料+支払利息(含リースの利息相当分)-グループ他社への機材賃貸収入)が大きく増えている。+213千円(+26%)
保有機の売却で資金回収→リースバック化の影響がここにも出ていると考えられる。
結論として、黒字化のためには、旅客単価、搭乗率双方の改善が不可欠である。
低い機材稼働を高める(含減機)ことも必要であろう。
【エアアジアXの便当り費用の推移】 (円換算額※)
以上(Y.A)