アメリカのLCC3社の収益性と財務力(2)

2020年8月13日

 

アメリカのLCC3社の収益性と財務力(2)

~ その2 財務力の比較 (2020上期実績より) 

 

 コロナの影響がはっきり表れてきたのは3月だが、その規模は余りに大きく、3社ともにQ113月)の収支から赤字となった。 そして影響をフルに受けたQ2の実績は悲惨なものとなった。

 3社ともに大幅な赤字ながら、SWと他の2社に財務力の差がはっきりしてきた。

    (注)金額は$=108円換算で円貨表示、マイルはkmに換算して指標を算出。

 

1.         Q1Q2の収支(下表を参照)

    Southwest; 

Q1; 需要(RPK)が▲22%減少して収入は▲18%、事業利益は前年より700億円悪化して▲156億円となった。

Q2; 収入は前年より約5300億円少ない1089億円。 費用も2910億円減少したが、
収支は▲2383億円悪化して、事業利益は▲1338億円となった。

   (税金控除後の当期損益は▲988億円)

前年より▲55%少ない座席で、得た旅客数は▲84%も少なく、搭乗率は8631%と大きく低下した。

 

    JetBlue

Q1; 需要が▲18%減少して収入も▲15%減、他方費用は+7%増加したため、事業利益は悪化して▲382億円となった。

Q2; 供給を著しく圧縮して、供給座席(ASK)は前年より▲85%、 旅客(RPK)は▲94%減、これに連動して収入も▲90%減となった。

しかし費用は座席数(ASK)の減少ほどには減らず、前年比▲64%に留まった。

この結果、売上(232億円)の倍を超す赤字(▲486億円)となった。

 

    Spirit

Q1; ▲2%減の需要(RPK)で、収入は▲10%。 加えて供給増により費用が増えたため、赤字に転落した。

Q2; JetBlueと殆ど同じ傾向を示している。 即ち、供給を著しく圧縮して、座席数(ASK)は前年より▲83%、 旅客数(RPK)は▲90%減、これに連動して収入も▲86%減となった。

他方費用は座席数(ASK)の減少ほどには減らず、前年比▲59%に留まった。

 

この結果、事業利益は前年より▲390億円悪化して▲230億円となった。

 

    Q2におけるSWと他の2社の収支悪化内容の違い(下表参照); 

・  Q23社ともに収入は需要減にほぼ連動して減少した。

 

      しかしながら供給減/費用減についてはSWと他の2社では傾向が異なっている。

即ち、SW;; 供給(ASK)▲55%で、費用も▲55%減少。

    JetBlue; 供給▲85%で、費用はそれより減少幅が少なく▲64%、同様に

    Spiritも  供給▲83%で、費用は▲59%の減。

 

      SWは、供給を絞っても減らない機材費のような費用があるものの、燃油単価の下落

効果でカバーされた。 また補助金の交付を受けた人件費は、規模減なみに減少。

その他の費用も規模減(▲55%)程度には削減された。

 

      JetBlueSpiritも、SWと同じ傾向ながら、供給減が余りに大きく、固定費がそれほどには絞り込まれなかった。

  このため、収支悪化の半分近くが、固定費を供給規模並みには縮減できなかったことで発生している。

 

2.         財務状況の比較(下表参照)

下表は、手元資金(現預金)や借入金等のBS科目について、期首⇒6月末の変化をみたもの。同時に期間中のキャッシュフローをみたものである。

 

① Southwest; 積極的な資金調達で手元資金を大幅に積み上げ

     資金調達; 期間中に借入金は7489億円増えて、残高は1兆円超となった。

そのほか「増資(2478億円)」や機材のセール&リースバック(880億円)でも調達し、政府 からの人件費補助(Q3の前受分956億円)も得た。

一方赤字や設備投資によるCash流出もあったが、調達した資金はそれを上回り、

手元資金は1.12兆円積み上がって1.56兆円にもなった。

 

② JetBlue; 借入金は2637億円増 ⇒手元資金は1699億円増

     資金調達; 期間中に借入金は2637億円増えて、残高は5158億円となった。

また機材のセール&リースバック(127億円)を行い、補助金(392億円)も得たが、設備投資(469億円)や赤字による流出(減価償却による歩留まり控除で635-275億円)で消費し、手元資金の積み上りは1699億円⇒期末手元資金残高は3133億円となった。

 

③ Spirit; 借入金は435億円増 ⇒手元資金は194億円増。

     資金調達; 期間中に借入金は435億円増えて、残高は2832億円となった。

 

また増資(220億円)を行い、補助金(123億円)も得たが、設備投資(484億円)や赤字による流出(減価償却による歩留まり控除で186-146億円)で消費し、手元資金の積み上がりは194億円⇒期末手元資金残高は1365億円となった。

 

3.         収益力・財務力の比較(まとめ);下表参照

(注)ここでは、「航空機等」にはリース機資産を含み、「借入金」にはリース負債を含む。

 

① 2019年までの収支の推移を見る限り、3社の収益性には大きな差はみられない。

しかし財務力の差はあり、まずは自己資本比率である。

SW38%であるが、自己株式購入で純資産は圧縮されており、利益剰余金の額に注目すると+31ポイントを割増評価できよう。 JetBlue40%、Spirit32%である。

もうひとつは借入金依存度である。

2019末のそれはSW15%、JetBlue26%、Spirit51%と図抜けて高い。

機材の稼得効率をみる航空機回転率(売上高÷航空機)も、SWJBSpiritの順である。

 

       2020年の3月頃からコロナの影響を強く受けて3社ともに各社とも大幅赤字となったが、6月末の財務力では、3社の格差は拡大している。

 

      Southwest; 手元の資金量は借入金の規模を上回る。

増資やセール&リースバック、そして大規模な借入増で積極的に資金を調達。

借入金(リース負債を含む)は1.23兆円に達したが、これは売上(2019年)の6.1ヵ月分に相当する。

しかし手元資金はそれ以上に積み上がった。売上の7.7ヵ月分である。

借入金増⇒金利負担増となるが、今後の赤字⇒Cash流出に備えて懐を深くしたことは大きい(生き残り競争で最後まで残れることになる)。

(※)因みに、全面運航停止して、燃油費/空港使用料/償却費ではCashが流出せず、しかしそれ以外の費用は2019年並みに流出(13544億円)すると仮定計算した時に、手元資金で喰いつなげる「理論的期間は13.8ヵ月」となる。

 

      JetBlueSpirit; 借入金の負担が増す(特にSpirit

JetBlueは赤字によって純資産が減少して自己資本比率は29%に低下した。

借入れを中心に手元資金を、収入(2019年)の4.3ヵ月分まで積み増したが、

借入金残高は手元資金のほぼ2倍:収入の8.2ヵ月分に膨らんだ。

(※)SWと同様の仮定計算による理論的期間は7.8ヵ月となる。

 

Spiritは増資と借入金で資金を調達したが、設備投資での流出が大きく、手元資金

の積み上がりは+194億円に留まって、6月末残高は収入の4ヵ月分。

一方で借入金残高はその3倍以上の、12.6ヵ月分となった。

これでは更なる資金調達は難しくなるであろうし、仮にできたとしても金利コストは

相当高くなるであろう。

(※)仮定計算による数値は、JetBlueと同レベルの7.8ヵ月となった。

 

       結論; これまで高い収益性を誇ってきたLCC3社であり、コロナの影響はともに激甚で

     あるが、今後の生き残り競争という観点で見る限り、資金調達の困難度や金利負担

     の重篤度がポイントとなるため、Spiritには厳しい環境となり、SWは優位という

     ことが言えるだろう。

 

 

以上