2020年8月10日
アメリカのLCC3社の収益性と財務力(1)
~ その1 収益性の比較 (2019実績より) ~
絶え間ない成長と、高い収益性(少なくともコロナ禍までは)をあげ続けてきた米国のLCC3社を、収支、財務面から2回シリーズで比較分析します。
1回目は2019年実績をもとに各社の収益力を比較分析します。
次回はコロナの影響で悪化した経営状況を、財務力を中心に比較分析します。
(注)金額は$=108円換算で円貨表示、マイルはkmに換算して指標を算出。
最も歴史があり、規模、顧客評判、収益性ともに世界トップクラスのSouthwest Airlines、
グレード感と2タイプ機材(小型機とリージョナル機)を特徴とするJetBlue Airways、
顧客クレームが多いが、超低運賃で利益を上げ成長を続けているウルトラLCCのSpirit Airlines
の比較分析です。
1. 3社の概要
① Southwest;
世界ではじめてLCCの事業モデルを作り成功したである。
創始者ハーブ・ケレハーの「従業員第一、顧客第二」主義は余りにも有名なスローガン。
従業員と家族を大事にすることで顧客サービス精神が涵養されるとし、レイオフを行わない。 高い定時性、親しみと従業員の自発的ユーモア(サプライズ)で顧客の心を掴み続けている。
テキサス州ダラスを本拠に、専ら国内線を運航している。
機材はB737シリーズで一貫している。
【SWの路線網】
② JetBlue;
LCCではあるものの、機内TV、広いピッチと革張りシート、無料の飲料やアメニティなどグレード感あるサービスを提供。 そのモデルを確立したのはデビット・ニールマンであるが、その後JetBlueを去り、ブラジルでアズール航空を立ち上げた。
JFK空港を核に、フォートローダーデール(フロリダ)、ロングビーチ(カリフォルイア)等のベースを持ち、国内線のほか、メキシコ/カリブ/近距離の南米に国際線を運航している。
機材はA320/321型のほか、リージョナル機であるE190を併用している。
【JetBlueの路線網】
③ Spirit;
フォートローダーデール(フロリダ)を核に国内線やバーミューダ・西インドへの国際線を運航。
機材はA320/321型のみ(過去はMD-82型)。
既存LCCであるSWやJetblueとは異なる徹底した低運賃を追求する「ウルトラLCC」
を標榜(欧州のRyanairに通じるところがある)している。
長低運賃の一方で、機内持ち込み手荷物も含め付加料金の徴収にも熱心。
旅客からクレームが多いことでも有名。
【Spiritの路線網】
*路線図 -各社HPより
2. 事業概要の比較(2019実績)
① 収入規模と収益性;
SWの収入は2.4兆円、JetBlueはその1/3で8700億円、Spiritはそのまた半分の4100
億円。
3社とも収益性は高く、SWの事業利益(金融収支も加味した税前の利益)は約3200億円(利益率13%)。JetBlueのそれは830億円(同9.5%)、Spiritは470億円(同11)。
② 機材(期末);
SWは747機で、143席のB737-700が2/3を占めている。
JetBlueはSWの約1/3の259機。
A320とA321はプレミアム仕様機材が多く、標準より席数が少なめである。
ほかに100席のE190を保有している。
Spiritは145機。 エアバスの3機種であるが、いずれも高密度で標準以上の座席仕様と
なっている。
【機材と座席数】(2019.12末)
③ 路線距離; SWとSpiritの平均路線距離は平均1500km程度、JetBlueは約2000km。
④ 搭乗率とB/E; 搭乗率は3社ともに約84%ではぼ並んでいる。
B/EはSWが最も低く(72.5%)、JetBlueが76%で最も高い。
【収益性指標の比較】(2019)
⑤ 旅客単価と座席コスト;
旅客単価; 発着旅客単価は、平均路線距離の長いJetBlueが約2万円で最も高いが、㌔単価(ここでは1000km当り)ではSWが最も高く約11,500円、10,100円のJetBlueが続き、Spiritは約7,300円と各段に安い。
座席コスト; 旅客㌔単価と同様、SW、JetBlue、Spiritの順だが、Spiritが格段に低い。
【旅客㌔単価と座席㌔コスト】(単位;円/千㌔当り)
座席コストについて、費用別内訳をみると;
・ 人件費で大きな差がついている。
SWの人件費は3539円でコストの43%を占めている。
SWの人件費を100とした指数でみると、JetBlueは69、Spiritは39。
・
Spiritが燃油費はじめ、全体的に低コストとなっているのは、座席密度が高い
こととも関係していると考えられる。
・ SWの機材費が安いのは、償却が進んだ自社保有機が多いこともあろう。
【座席コストの内訳】(単位;円/千㌔当り)
3. 事業規模の推移(2011~2019実績)
① 収入規模の推移;
データの整っている2011年以降、3社ともコンスタントに増収を続けてきた。
伸び率ではSpiritが高く、JetBlueもSWより高い。
上段【収入推移】(億円) 下段 【収入推移】(2011年を
100とした指数)
② 事業利益の推移;
3社ともに、2011以降で赤字になったことは一度もなく、2014年からは、ほぼ10%程度の利益率で推移している(2018年のJetBlueとSpiritはやや低下)。
特にSWは最近5年は安定して15%レベルの利益率をあげている。
【事業利益の推移】(億円)
【利益率の推移】(%)
以上