スカイマーク支援問題について思う
2015年7月26日
赤井 奉久
スカイマークの再生支援が2つの案で揺れている。
ANAが中心となる支援か、デルタが中心となる支援か、である。
これについて長い間スカイマークの経営を見てきた立場から私見を述べたい。
1. 支援するものは何か?
① 基本事業モデルは黒字であり、これへの支援は必要としない。
コスト効率の良い小型機で、高需要の羽田路線を運営し、柔軟な低価格政策で
旅客を積み取るというスカイマークの事業モデルは、3年前(2012年度)に過去最高益を上げたが、それは今なお有効である。
LCCによる攻勢の影響は否定できないが、それと同じタイプの機材で運航しているスカイマークのコストハンデは小さい。他方国内線の約7割の旅客が利用している羽田の発着枠の価値は極めて大きい。高運賃の大手2社と一味違った強みを充分持っているのだ。
この部分は、コードシェアで座席を買い支えるといった支援は無要であり、それはむしろ基本事業モデルを縛り、消費者利便を損なうだけといえよう。
確かに既存会社に比べてスカイマークのサービスの悪さは否定できないし、運航体制の充実も望まれ、この部分は改善が必要である。しかし事業モデルの放棄との引き換えで得るような性質のものではない。
事業の日常運営に関する限り、どこが支援しても(しなくても)再生は可能だということである。
② 必要としているのは、巨額の尻拭いである。
破綻の原因は2つの大型機であることははっきりしている。いわば余計なことをして自ら破綻に嵌まり込んだわけである。
超巨大機(A380)によるいきなりの長距離国際線進出は論外である。
A330も計数試算すれば無理なことが見えていた。この機材を271席で使えば、座席コストの6割を占める運航4費用(燃油費、空港使用料、機材費、整備費)だけでも5割近く上昇したはずである。高い運賃と強い集客力を持つ大手ならいざ知らす、スカイマークの事業モデルで利益をあげようとするのは無謀と言うほかはない。
最も大きな痛手を受けているのはA330のリース会社である。(エアバス社は、A380では相応の前払金を受け取っており、この分は割引いて考えるべきであろう。)
しかしリース物件の事前調査が弱すぎたという点では、リース会社の落ち度も大きく、それに見合う代償はやむを得ないとすべきであろう。
現在の再建案のポイントは、リース会社(特にイントレピッド)がどの程度まで我慢できるかということである。換言すればA330の転用について展望が開けるかどうかということだ。
最初にこの問題を持ちかけた相手(ANA)からは袖にされた。デルタならその展望が開ける可能性があるということなのだろう。だが二次破綻してしまえばそれすら叶わなくなる。少しでも条件のいい落着き先を探っているのが現状だと思われる。
2. 今後どうなっていくのだろうか?
正直いってどちらの再建案に落ち着くかは見通せない。
イントレピッドはA330の転用(スカイマークの機内仕様はほかでは使えないと思われる)を中心に、痛手の極小化を求めて動いていくであろう。
エアバスはじめ巨大債権各社は、場外での条件との見合いで態度を決めようとしていると思われる。例えば、エアバス機の新規採用や大量購入、リースへの漕ぎつけ等である。
前述のとおり、スカイマークの本来事業は、路線見直しに加えてサービス向上等の改善を重ねていけば、それ自体から利益をあげるのは難しくはないであろう。
他方では、現在の債務額は、その地道な努力で賄える規模にはほど遠い。
やはり巨大企業の支援を受けない限り、この窮地から脱することは困難であろう。
今は偶々その企業がANAかデルタかということである。
両社にとって、収益性の高いスカイマークの事業資源を自らの懐に取り込むことは魅力であり、多少の出費は覚悟しても手に入れたいところでもあろう。
特にANAはスカイマークがデルタに渡ることだけは何としても避けたいであろう。
どちらに決まるにしても、程度の差はあれ、スカイマークの事業モデルに影響を及ぼすことになろう。今後の成り行きを注目していきたい。
以上