2015年4月19日
エミレーツ航空概観
エミレーツ航空は、UAEを構成するドバイ首長国の主要事業の一つとして近年急激に勢力を伸ばし、今では欧州や米国の航空事業との間で軋轢を生じるまでになった。
一方では、アブダビをベースとするエティハド航空や、ドーハをベースとするカタール航空と、同じマーケットで激しく競争している。
今回その業容を概観した。
Ⅰ.背景;ドバイ首長国とエミレーツ航空の関係
1.ドバイ国の国情
他の中東国に比べて石油埋蔵量が少なく産業の脱石油化のために、周辺諸国の豊富なオイルマネーを呼び込み、ヒト、モノ、カネの一大集散地化を目指している。そのため物流基地、観光施設、金融特区などを整備しているが、それを可能にしているのが政府系ファンドである。
2.ドバイ国の航空関連事業
航空当局、ドバイ空港、エミレーツグループが一体となって航空事業を推進しており、それを束ねているのが現首長(UAE副大統領、UAE首相でもある)の
叔父(先々代首長の弟)にあたるアハマド・ビン・サイード氏である。
エミレーツグループは航空関連事業を一手におさめ、エミレーツ航空もその一つである。
3.世界の航空ハブとしての地理的優位性を活かす
ドバイ(その周辺にあるアブダビやカタールなども同じであるが)は、大型航空機の飛行圏内として、アフリカや南米に至るまで、世界のぼほ全域をカバーできるという地理的優位性を持っている。
因みに日本からサンパウロへの便数(経由便)も、今では米国経由を大きく上回っている。
Ⅱ.エミレーツ航空概観
(アニュアルレポートによる。3月決算。通貨はAED=32.4円で換算)
1.エミレーツ航空の成長(2004~2013年度)
(系列LCCのflydubai社は含まない)
① 機数は69⇒217機(3.1倍)、旅客数は12.5⇒44.5百万人(3.6倍)に。
なおこの間RPK(旅客㌔)は4.2倍になっている。
① 営業収益は5800⇒2兆6780億円(4.6倍)になり、その間継続して1000億円規模の営業利益を計上している。
2.収入の路線別内訳(2013年度)
航空運送収入を路線別にみると、
・ 東アジア&オセアニア線と欧州線が夫々約3割、
・ 米州、中東、インド&西アジア、アフリカ線が夫々約1割となっている。
・ 他に系列LCCのflydubai(中東中心)がその5%相当を稼いでいる。
3.機材の内訳(2013年度末)
機材217機(2014.3月現在)の内訳をみると、
・ 全て大型機で、A380が47機、B777(旅客)が124機
・ 貨物機が12機となっている。
・ 自社所有は15機(7%)にすぎず、大半がリース機である。
(リース元は不明)
・ 発注中の機材は、オプションを含めて371機であり、うち93機が
A380である(現有とあわせて計140機)。
・なお系列のflydubaiはB737-800を47機保有し、90機を発注している。
4.旅客に関わる収益性指標(2013年度)
事業構造が類似していると考えられるシンガポール航空と比較した。
(両社ともに平均路線距離5000km程度の長距離国際線会社であり、プレミアム旅客を重視している。)
・ エミレーツ(EK)の旅客収入は約2兆1000億円で、シンガポール航空(SQ)の約3倍。営業利益は8倍強の1380億円(利益は全て旅客から発生するものとみなした数値)。
・ EKの搭乗率は79%とSQと同レベルであるが、B/Eが63%と著しく低い。それは旅客単価(千㌔当り)の9,800円がSQの7,800円より大幅に高いことによる。
・ 費用の構成をみると両社は酷似している。
(収益性指標の比較)
Ⅲ.中東3空港と中東3社の比較
(2月16日の各空港の出発便数をJAMRにてカウントしたもの)
アブダビはドバイと約100kmの距離にあって、エティハド航空のベースであり、ドーハはドバイと約400kmの直線距離にあって、カタール航空のベースである。
つまり、同じ地域にあって、同じ客層を巡って激しく競争しているといえる。
その中でドバイをベースとするエミレーツは、先行したことでかなり優位に立っているといえよう。
1.3空港の就航地点数比較
① ドバイ空港は、世界の163地点と繋がり、1日に554便運航している。
② アブダビ空港は91地点と繋がり、205便就航しているが、
ドバイと異なる地点への就航は、10地点/11便にすぎない。
① ドーハ空港は111地点とと繋がり、277便就航しているが、
ドバイと異なる地点への就航は、17地点/19便にすぎない。
2.3空港の路線別便数比較
3空港と、そこをベースとしている航空会社の便数を路線別に眺めた。
中でも近距離の中東、西アジア等を除く「長距離路線」については特徴が
顕著に表れていると思われる。
① ドバイからの長距離路線ネットワークは圧倒的に多く、また相手国等外国の航空会社の運航も多い。
② アブダビやドーハからの長距離路線ネットワークは、ドバイと比べてまだ弱く、外国社等の乗入れも少ない。現時点では自国の航空会社だけが頑張っている状況といえるのではないか。
以上