「JAMR研究員による2016年頭の小論文・随筆など」

 

「先人の知恵」

 

主席研究員  風間秀樹

 

 

昨年の暮れも押し迫った12月30日の朝、米国シカゴのオヘア空港で、ユナイテッド航空のB737が着陸後滑走路から誘導路に出ようとしたが、滑って芝生に突っ込んでしまう事故があった。幸いケガ人もなく大事に至らなかったこともあり、日本では全く報道されていない。

 

当日はシカゴ空港周辺では早朝から雪が降り始め、滑走路にも雪が積もり始めており、空港当局はいつ滑走路の除雪を開始しようかという状況のようであった。

 

飛行機は空を飛ぶために作られているので地上走行が最も苦手である。機体は3点で支えられており、いわば3輪車。直進している時はさほど問題とはならないが曲がり始めると急に不安定になる特徴がある。特に今回のように路面に雪が積もっていて滑りやすい状況であれば、よほど慎重に地上旋回を開始しないと一時的にコントロールが効かなくなってしまう。

 

筆者も現役時代に何度か同じような経験しており、他人事とは思えないのである。

 

今年は例年にも増して年末年始は暖かく、東京では雪の降る気配は感じられないが、日本列島は南北に長く東北、北海道地方ではこれから春先まで雪との格闘が続いていく。

 

飛行機の運航は気象と密接な関係がある。運航に障害となる気象は季節ごとに変化し、「春の嵐」「夏の雲」「秋の霧」「冬の雪」と言われている。

 

現在は気象解析の精度が格段に高まり、しかもリアルタイムにその情報をパイロットが入手できる時代になって来てはいるが、その情報を如何に活用し、時々刻々変化する運航環境に適用していくかはパイロット自身の力量にかかっている。

 

絶対に安全などというものは目標であっても現実にはない。如何にそのリスクを軽減しコントロールするかが問われているわけで、そのためには過去の経験を共有し、生かしていくことが大事な要素に違いない。

今回のユナイテッド航空のインシデントに接し、同じことが繰り返されているなぁ、という印象を強く抱いた次第である。

 

 

以上