「JAMR研究員による2014年頭の小論文・随筆など」

 

「規制緩和」と羽田発着枠

 

主席研究員 大森徹 

 

 

2次安倍内閣が誕生して早くも1年が経過した。何も決めない、何も変わらない民主党政権から、久々に政治のリーダーシップが発揮された形で「アベノミクス」がもてはやされ、「3本の矢計画」に期待を込めて日経平均株価は15,000円を超える水準で年末を迎えつつある。

    そしてその「第3の矢」では例によって「規制緩和」が目玉として取り上げられ、農業、医療や

     解雇ルール等が取沙汰されているが、所謂「岩盤」に行く手を阻まれながら相変わらずもが

     いているように見える。

 

この規制緩和という言葉は筆者がサラリーマンになってしばらくしてから声高に叫ばれ始め、以来ずっと聞こえ続けている。歴史を紐解いてみると1981年鈴木善幸内閣時代に「第2次臨時行政調査会」(土光臨調)が設置され、「増税なき財政再建」をかかげあのメザシの土光さんが行政組織の見直しや3公社民営化等提言をまとめて以来ということになる。

 

航空を始めとして、鉄道、バス、タクシー、物流等、交通事業はその公共性や安全確保の観点から各種規制を受けやすい業態である。また、空港や鉄道建設のように巨額の資金が必要とされ、地元の利害に直結することから政治の関与も受けやすい。

 

こと航空に関しては交通事業の中でいち早く規制緩和の流れが始まった。1980年代中盤の「45-47体制」の撤廃(国際線複数社化等)を皮切りに、国内路線参入に関わるダブル・トリプルトラックルールの導入、幅運賃導入からついに需給調整規制の撤廃、運賃自由化に至り、所謂「管理された競争促進」が15年間にわたり推進された。(1)

 

(表1:規制緩和の歴史)

 

1985

45・47体制の廃止

 
 

1986

日本航空の完全民営化

 
 

1986

同一路線複数社運航開始(ダブルトリプルトラック)

 
 

1995

割引運賃設定の緩和

 
 

1996

普通運賃 幅運賃制度の導入

 
 

1997

同一路線複数社運航ルールの廃止

 
 

1998

新規航空会社の参入

 
 

2000

『改正航空法』 

需給調整規制と運賃規制撤廃

 
 

 

 

この結果2000年の改正航空法により国内線に関わる経済的規制は完全に撤廃されたことになっている。但し特に首都圏空港の容量不足は継続して存在しており、その貴重な発着枠が制限されていることから、結果的に既得権益を有するJALANAが守られてきたのが実態であろう。我が国は首都圏に極端に一極集中しており、現実に国内旅客の約7割が羽田空港を利用している。従って国内線の事業運営は羽田の枠をどれだけ確保できるかがキーとなってしまう。

 

1998年に鳴り物入りで参入したスカイマークとエアドゥであったが、その後の新規参入(スカイネット、スターフライヤー)を含め羽田の枠は常に「小出し」にされ、15年たった現在でもJALANA両社が80%近くのシェアを確保している。(表2)このため新しい事業者はスカイマークを除いて思うような規模拡大につながらず、その結果経営も不安定な状態が続き結局ANAの軍門に下ったというのが実態であろう。ANAは新規企業の救済という美名のもと、コードシェアという「高等戦術」によって巧妙に実質的な羽田枠の拡張を獲得し、2000年代初頭のJALJAS経営統合に対抗してきた。こうして我が国の国内航空においてはスカイマーク対JALANAの局地戦を除いては、ドラスティックな価格競争も起きることはなかった。

 

(表2:羽田発着枠シェア[%]

 

 

旅客㌔あたり収入をみると1989年の航空大手3社平均が21.0円、至近の2013年上期でJAL17.5円、ANA17.9円であり、規制緩和が進み完全な自由市場となったものの24年間で15%程度の下落で済んでいる。勿論その間、原油が高騰し、かつ消費者物価指数も8.7%程度上昇していることを考慮すると両社、特に経営破綻することなく現在に至っているANAの企業努力たるや大いに評価されるべきであるが、所詮1年間に1%以下程度の値下げではなかったのか。

 

羽田の発着枠の配分を差配する国土交通省がエアラインの事業運営に強大な影響力を持つ状態が継続している。経済的規制が撤廃されていても、エアラインは常に国交省の顔色をうかがい間違ってもどこかの仇を羽田で討たれることのないよう万全を期そうとする。そして国交省に「顔のきく」政治家にも同様にすりよることになる。

 

本年10月、2014年夏期ダイヤから拡張される羽田国際線昼間帯枠がANAJAL=115の配分となったことが大きな話題となった。国内線を含めそもそも明確なルール化がされていないことに加え、今回は透明感の全くないままANAの主張する「格差是正」のためこの枠配分となった。しかしながら、そもそもJALを再生させた大きな理由の一つが適正な競争環境の確保であったはず。巨額の法人税が免除されることから生じる「格差」であればそれは税制の中で決着すべきことであり、市場における競争環境を阻害する手法をとることは決して消費者目線の政策とは言い難い。百歩譲って、仮にこの手法しかなかったとしても「格差」を明確に定義し、その是正がなされた時点で配分を見直すといったルール作りが最低限必要ではないか。

 

この結論に至るまでの間、ANAJAL両社の政治ロビー活動は大変活発なものであったと報道されている。所轄官庁と政治家の裁量に頼らざるを得ないこのような業界で本当にいいのだろうか?

 

頼ればその見返りを要求されるのが常である。赤字路線の撤退や復活に圧力がかかったり、実質的な経済的規制を受け続けることになり、決して業界全体の利益にはつながらない。我が国の民間航空業界リーダーたる両社は共にこのことを肝に銘じ、権益ビジネスから一日も早く脱却し、透明かつ公正なルールの下で堂々と競争する方向性を打ち出してほしい。そして名実ともに国際競争力のあるエアラインとして世界に羽ばたいてほしい。

 

 

以上