乗り越えられるか? 「8,000円x 80%」の壁
~ LCC定着の条件 ~
所長 赤井 奉久
1. はじめに
2周目(就航2年目)の日本のLCCは第3コーナーを廻ってホームストレッチに入った。
先頭を走るPeachは安定走法に入ろうとしており、Jetstar-Jが懸命に追いかける。
息切れしたAirAsia-JはVanilaに走者が替わった。この先どうなるだろうか?
LCCの定着如何が大手2社をはじめ中堅4社を刺激することは確かだ。
そして日本の航空市場全体の活性化スピードに影響することも。
2.. 黒字化の課題
初年度の業績(営業損益)は、Peachが▲9億円の赤字(H25年3月まで)、Jetstar-Jの
それは▲90億円(6月まで)、AirAsiaは▲33億円(3月まで)であった。 最大の課題は
黒字化だ。
黒字化に必要なものは何か? それは、
「収入平均単価8,000円と搭乗率80%」の同時達成」だ。
即ち「8,000円 x 80% ≧ 座席コスト6,400円」の実現だ。
高コストを余儀なくされている日本では、座席コスト7,000円の壁は厚い。
これにあらゆる努力の付帯的収入で補ったとしても6,400円が限界であろう。
他方、運賃が既存会社の半額を超えればLCCの魅力も薄れる。
通年での搭乗率でほぼ実現可能なラインは80%であろう。
収入単価8,000円、搭乗率80%、座席コスト(付帯収入で補う分を含む)6,400円、これを超え
た分が利益となるのだ。
3. 達成の条件
① 運航品質が大前提
利用者側の必須条件は「確実に目的地に到達できること」である。
「欠航」は特にNG!
「遅延率(15分を越す遅れ)」は程度による。16分は受容されたとしても3時間はNG!
大きな遅延は最後には欠航に繋がっていくため、欠航率が特に重要な指標となろう。
この夏期のPeachの欠航率(国内線)は国内全社の中で最も低い0.16%であった。
遅延率は16%と最悪レベルであったが、搭乗率は80%をクリアしたようだ。
他方Jetstar-Jは、遅延率ではPeachの半分(8%)ながら、欠航率は1.13%とPeachの7倍
であった。成田の門限ハンデがあるものの、遅延の程度が大きかったものと推定され、これ
がPeachとの搭乗率差の一因にもなっていると思われる。
(欠航率、遅延率ともに最悪のAirAsia-Jは論外)
運航品質確保がLCCの生命線といえるのだ。
② 格安感のある運賃
低コスト化⇒超格安運賃化が容易な海外と比べて、高コストの日本はそれが難しい。
爆発的割安感を演出し難いのだ。
同じ8,000円の運賃差でも、海外のように12,000円(既存会社)に対する4,000円(LCC)
と、16,000円に対する8,000円では重みが異なる。
Ryanairのような「格安運賃」一本槍で80%を達成するのは日本では苦労が大きい。
格安度は若干緩んでも、消費者の満足度(お得感)で補う「格安感のある運賃」で勝負する
方が賢いのだ。
そのちょっとした創意工夫やお得感が、ちょっとした搭乗率の上積みやちょっと高い運賃の
容認に繋がる。そしてこれらは収益性の改善をもたらす。日本のLCCには、この「ちょっとした」
で利益を稼ぐ心意気を期待したい。
さしづめこれまでは、「格安運賃」のJetstar-Jと、「格安感運賃」のPeachといえるのではなか
ろうか。
(重要なイールド管理)
980円とか1,980円といった「話題運賃」の提供は需要開拓には必須であり、これを積極的に
行ってるJetstar-Jを評価したい。大事なのは話題運賃の座席コストとの差を埋め、空席分の
コストをカバーする普通運賃をどうコントロールするかである。
夏期以降の運賃状況をみると、各LCCともにこれが進んでいるようだ。
年末年始の予約状況(12月13日現在)をみると、Peachは68%と低いが、これこそ今後の比
較的高めの旅客を見通したイールド管理の結果と思われる。
4.今年のLCCの展望
Peachは「8,000円 x 80%」を達成して黒字化する展望が開けた。
身の丈を縮めて再出発したVanilaは、赤字を蒙らない程度での事業展開となり、市場への影響
力は当面限られたものに留まるであろう。
今年最も注目し期待もしたいのはJetstar-Jだ。
Jetstar-Jはこの2つの指標にともに今一息の状況にある。
この先赤字が更に膨らみ黒字化も展望できないようだと、規模縮小や、場合によっては経営の
転換も余儀なくされよう。もしそうなるようだと、巨大な首都圏市場が、LCCが世界的に産み出
している航空活性化の波から取り残されかねないのだ。
今年はLCC4社目の春秋航空日本も就航する。
各社が「8,000円x80%」を達成して、日本の航空市場活性化の原動力になることを願って
やまない。
以上