2019年12月17日
12-Dec-2019
香港の旅行需要は、特別区全体を巻き込んだ、市民生活の情勢不安から、大地震の様な衝撃を経験して居る。これは、エアライン、特に香港を本拠とするキャセイ太平洋と香港航空に大きな影響を及ぼして居る。両社とも需要が激減し、2020年に及んで大規模な供給の削減を余儀なくさせて居る。
エアライン各社に対する、経済的な影響の全容は未だに明らかでは無い。
キャセイグループのエアラインと香港航空、特に香港航空にとっては、既に財政的に脆弱な状況にあった時に生じた、旅客需要と収入の損失は大打撃であり、更にアジアのエアライン業界にとって、広範な経済的な懸念も拡大して居る。
Summary概要
● エアライン各社は、拡大基調を逆行させ、香港市場から供給を引き揚げて居る。
● 中国本土市場は香港国際空港(HKIA)の最大の市場であり、最大の痛手である。
● キャセイ太平洋は供給計画を縮小し、航空機の納入を遅らせた。
● 香港航空は、財務的損失を切るために、徐々に路線を削って居る。
● 最近の危機は香港航空の流動資金問題を悪化させて居る。
香港での抗議活動は2019年6月に始まり、論議を呼んだ逃亡犯引渡し条例改正案への反対運動で火が付いた。この法案は最終的に取り下げられたのだが、抗議する人々はこの問題を超えて、当局にとってはより受け容れにくい5項目の要求リストへと進んでしまった。人々の抗議と警察の対応は、暴力と死者さえ出すまでに確実にエスカレートしてしまった。
旅行需要については、香港の街頭での混乱が、明らかに潜在的観光客の欲求を殺いでしまった。ビジネス旅行もまた、影響を受け、香港で計画されて居た、2019年11月21日・22日にキャセイ太平洋が主催する事になって居たアジアのエアラインCEOの会議など、幾つかの大規模な会議が取り止めになって居る。
市民生活の不安は、8月にデモ隊が数日間ターミナルを占拠して、大量のフライトキャンセルや混乱が生じ、香港国際空港(HKIA)が直接の影響を受けた。その時以来、24時間以内に旅行する、航空券を持った旅客以外のターミナルへの入場は制限されて居る。
HKIA(香港国際空港)の供給席数は、特に中国路線で落ちて居る
CAPAとOAGによるHKIAの統計は、エアライン各社が弱い需要に対応するため、如何に供給を引き揚げているかを明白に示して居る。席数で見た空港での供給量は、2019年8月下旬まで、概ね2018年と同水準を、或は僅かに上回る軌跡を描いて来た。その後、週間供給席数は2018年、そして2017年の水準以下に急落して居る。
2019年12月2日の週、供給席総数(緑の線)も2016年の水準を下回り、対前年同期比で12%近く落ちて居る。
HKIA供給席数:2012年~2019年
Source: CAPA - Centre for Aviation; OAG.
この下落は、HKIAに於ける長期に亘る拡大傾向を大きく覆すものだ。
この空港の総供給席数は、少なくとも2012年以来、毎年増大して来たことは、CAPAとOAGのデータが示して居る。
然し、2017年と2018年の両年とも4%以上伸びた後、席数は、2019年通年では、4%近く減少するだろうと推定される。
HKIAの総供給席数は、2019年通年では約4%減少して居る
Source: CAPA - Centre for Aviation; OAG.
[脚注:*これらの年の数値は少なくとも2019年12月から6か月については部分的に予測値であり、変更の可能性がある。]
香港=中国本土間の市場では、需要と供給の減退に、特に大きな衝撃を受けて居る。中国もHKIA発の供給席数では、2019年12月2日の週の合計席数の17.7%と、最大の占有率を持って居るため、これは大問題である。
CAPAとOAGのデータに依れば、その同じ週に、中国本土と香港の間の総席数は対前年で22.4%減少して居る。この路線の全14社のエアラインが供給を削って居り、中国を本拠地とするエアラインの方が、概して香港拠点のエアラインより大きな減少を経験して居る。
例えば、中国国際と中国東方は共に、香港行き便の供給席数が44~48%も減って居る。香港=中国間市場の最大のエアラインであるキャセイの子会社キャセイ・ドラゴンは、その席数減が7.5%と殆どの他エアラインより小さいため、占有率を51.8%に伸ばして居る。
香港が本拠でないエアラインは、供給を他の市場に向ける事が出来る。
例えばカンタスは、香港線に投入する航空機の機種を小型化する事に決め、A330-300をシンガポールやマニラの様な伸びて居る市場に変更して居る。香港当局は、極めて競争率の高いHKIAの発着枠に対する、最小使用回数の必要条件を緩和して、エアライン各社がその発着枠の権利を失う事無く、暫定的な減便をする事を認めると報道されて居る。
キャセイ太平洋にとっては、まだ経営が脆弱な段階で、需要の問題がやって来た。
同社は、収益が悪化して居ることから、2017年に業績回復3ヶ年計画を開始した。これらの努力が、可なりの改善を生み出して来た時にこの問題がやって来た。抗議運動の政治的な結果としては、またCEOルパート・ホッグの辞任も巻き起こし、彼はオーガスタス・タンに交代となった。キャセイにとって、現在の重要な課題は、大きな努力で勝ち取って来た業績回復を脱線させるのを避けるという事だ。
キャセイは2019年12月2日の週のHKIA発供給席数で、34.2%の占有率を持って居て、子会社のキャセイドラゴンと香港エクスプレスを含めると56%以上になる(下表参照)。
エアライン別HKIAの供給席数占有率:キャセイグループは56%の占有率を持つ
Source: CAPA - Centre for Aviation; OAG.
キャセイはインバウンド需要の弱さに対応して供給を削って居る。同社は既に冬季スケジュールで供給を切って居るが、これは10月初旬から3月末まで続く。
2019年11月13日、キャセイは8月~10月期の供給が当初計画を2~4%下回り、2019年11月と12月には計画より6~7%低くなるだろうと明かした。
下表は、キャセイグループが、2018年水準を9月まで上回る軌道にあったが、2019年12月2日の週では対前年3.8%減となって居る事を示して居る。
これで同社は2018年と2017年の水準を下回る事になる。
キャセイグループの総供給席数:2019年8月まで拡大軌道が続いた
Source: CAPA - Centre for Aviation; OAG.
キャセイグループは、長年に亘る拡大から初めて、年間供給量を下げようとして居る。
CAPAとOAGのデータからは、グループの総供給席数は、2018年には5.6%伸びたのに対し、2019年にはほぼ1%落ちたと予測される。
キャセイグループ供給席数と対前年伸び率:2019年に供給席数はほぼ1%下落
Source: CAPA - Centre for Aviation; OAG.
供給の減少は2020年にも続くと予想される。2019年11月に従業員に送ったメモで、キャセイは、同社の現状は最近の数週間「悪化」して居り、来年2020年への予約状況は、「我々が望んだものより遥かに低調である。」と言って居る。
これに対応して、同エアラインは更なる供給削減を計画して居り、2020年には対前年で1.4%の減少を予測して居る。これは同社の当初計画にある、この年は3.1%の伸びに比べて、大変な隔たりである。キャセイは、全地域に亘り、便数の減少はあるだろうが、どの路線も全く切ってしまう事はしないと強調して居る。
供給の削減に並行して、キャセイはまた、2020年の保有機群の拡大計画を遅らせようとして居る。同エアラインは拡大計画を、4機の受領延期と2機の早期退役により、6機減らす計画だ。受領延期の機材は、子会社キャセイドラゴンと香港エクスプレスに割り当てられるものだ。総計として同グループは、2020年に17機を追加し10機を退役させる。
市場の下降傾向は、特に香港のエアラインを悩ませて居る
キャセイ太平洋にとっては、これまで、価格の低下と言う罰が着いてくるものの、乗り換え需要が一桁後半で伸びを見せて居たので、端末需要の流れを、幾らかこれで相殺する事が可能だった。
香港航空にとっては、ささやかなものかも知れないが、その様な慰めは無い。抗議運動は既に非常に不安だった見通しを、更に悪化させて居る。同エアラインは、その市場で暫くは、より厳しい競争と供給過剰の圧力を受け続け、香港の現在の問題は需要と収入を更に痛めつけて居ると述べて居る。
香港航空は、抗議運動の前に、既に可なりの削減を行い、そして最近の数か月は更に多くの供給削減を余儀なくされて居る。2019年11月4日、同社はロサンゼルス線の休止、その他の路線での減便など6%を削る予定だと発表した。
そして、2019年11月29日には、更なる需要の減退により事業を再度見直し、更なる削減を強いられて居る。同エアラインは、2月からバンクーバー線を休止し、北米路線が無くなると述べた。ホーチミン線、天津線の便も2月に休止する。
2019年12月2日の週の香港航空の供給席数は、対前年で18.4%下がった事を、CAPAとOAGのデータが示して居る。これは2016年の同社の水準を下回り、過去3年間に達成した成長を相殺する以上の事態だ。
航空の供給席数 2016年~2019年:対前年18.4%の減少
Source: CAPA - Centre for Aviation; OAG.
香港航空は同社の存立を脅かす流動性の逼迫にずっと直面して来た。
香港の航空当局は繰り返し、同エアラインの生存能力に懸念を表明し、同社の財務状況をつぶさに監視して来た。2019年11月27日、政府高官は、香港航空の経営者を召喚し、同エアラインの財務状況改善の為に緊急の対策をとる事が必要だと強調した。
2019年12月2日、航空輸送許可局(ATLA)は、同エアラインに、新たな資金を見つけ、指定された資金の水準を維持するよう警告した。ATLAは、2019年12月7日までにこの対策を取らない場合は、同エアラインのライセンスを停止すると言う選択肢を含む、更なる処置を取ると述べて居る。
同エアラインは、「緊急に株主達と協議の結果、資金注入計画」の導入により、既にATLAの必要条件を充たし、資金調達は「段階的に導入」する計画であると報告して居る。香港航空は中国のHNAグループの統制下にある。同社はこの最終期限切れを避ける事が出来たが、現在の環境は事態を改善してくれる様子はない。
香港の回復力、エアライン各社は、2020年に健全な盛り返しを望む
時期については確かではないが、エアライン各社がインバウンド需要は、2020年のある時点から回復し始めると予測するのは不合理ではないだろう。
香港の市場は、2003年SARSの恐怖(キャセイ太平洋は、全便運航中止の瀬戸際まで行った)や、鳥インフルエンザの惧れの様な、これまでも外的要因から、可なり早い段階で回復する能力を示して来た。もし抗議運動が、少なくとも大見出しになる様な暴力的な出来事が沈静化すれば、需要は以前の水準まで戻り始める筈だ。だが、中国本土からの需要の回復にはより長い時間がかかるだろう。
業界では聞きなれた事の繰り返しになるが、エアラインには自分たちの需要動向に影響する外的出来事に対して、影響を及ぼせる事が少ししかない。だが、彼らは自らの反応をコントロールする事は出来る。
キャセイは2020年の供給計画を削減する事で、妥当な途を進み始めた。若し需要が戻って来るとすれば、再調整が出来る;2020年の保有機群の伸びは抑制してしまったが、同社にはもし必要とあれば供給を増強する手は他にもある。キャセイの新たな経営陣は同社を採算性の軌道に留まらせる必要性を痛切に感じて居るだろう。
香港航空にとって、方程式は少し異なる。同社は、例え需要が回復したとしても、サプライヤーや、管理当局、そして旅客の間で、財政的な健全性への信頼を再構築する事を考え、供給については、保守的な取り組みをする事になりそうである。
Hong Kong traffic decline hurts airlines & airport