当分析はCAPAが2019年11月6日に発表した
Aviation safety regulators may diverge over Boeing 737 MAX's return
をJAMRが全文翻訳したものです。
2019年11月15日
各地域の航空安全当局、ボーイング737MAXの復帰について対応が分かれる
06-Nov-2019
欧州の航空安全の当局であるEASAは、ボーイング737MAXの飛行再開を承認するタイミングを、米国の当局であるFAAに追従して、同じ時期にするのでなく、自ら決める予定だと報じられて居る。中国もまた独自のタイムテーブルに従うかも知れない。
FAAは、他地区で更なる遅れが出る事は、この航空機への疑念を残し、FAAの権威を傷つける様に見られかねない事から、世界中で調整した決定の方が良いと考えて居るだろう。
歴史的には、航空機を運航停止したり、その運航再開を承認する事は通常(常に不変では無いが)、航空機メーカーの本拠地の、またはその機材の運航を承認した地区の当局の先導により、世界中で調整するやり方を採って来た。
然しながら、MAXの場合、中国民間航空局が一番手となって、2019年3月11日、FAAより2日早くこの機材を運航停止として、この紳士協定は始めから破られて居る。
ボーイングは2019年第4四半期に運航再開を希望して居るが、この機材の運航会社の幾つかは2020年1月或は2月の再開を計画して居る。
一方で、運航停止はボーイングの収支決算を直撃し、より幅広く米国経済にのしかかって居る。各地区の航空当局は、互いに不統一に動いて居り、MAXの運航再開を更に複雑にしかねない。
Summary概要
● 中国は、737MAXを2019年3月11日に運航停止としたが、FAAは同日、同機の耐空性を繰り返し、運航停止としたのは2019年3月13日、トランプ大統領の強い発言の後だった。
● ボーイングは2019年第4四半期に運航再開を目指して居るが、これは遅れる可能性がある。一方、運航停止は同社のキャッシュフローと収益を直撃し、より広く米国経済にのしかかって居る。
● ボーイングの評判にも影響を与えて居り、MAXの復帰は、例え全ての政府航空当局が認可したとしても、実際に始まるのには時間がかかるだろう。
2019年3月11日、中国がMAXを運航停止にしたが、FAAは耐空性証明通告を繰り返した
中国の航空当局の2019年3月11日MAXの運航停止の決断は、同日即座にインドネシアの運輸省の暫定運航差し止めが後を追う所となった。
然し、同じく2019年3月11日、FAAは耐空性証明の継続通知を発して居るのだが、中国民航(CAAC)は、断固として妥協しなかった。
2019年3月12日、EASA(欧州航空安全機関)に加え、シンガポール、インド、トルコ、韓国、マレーシアと豪州の航空当局が、同様に何らかの形で自らの域内での、MAX保有機群の運航停止を通告し、またその内幾つかは自国の空域での第3者によるMAXの運航を禁止した。
2019年3月12日、カナダが同様に同機を運航停止としたが、FAAは同日の数時間後、実質的にそれに追従する事を余儀なくされた。この時、多くの国の航空当局が、この決定に従う事となった。
FAAは余りにも、それ自身、動きが鈍いと批判されて居るボーイングからの合図を受け容れようとして居たことを批判されて居る。
CAACの決断の前にも、エチオピア航空は2019年3月10日の同社の事故の後、航空当局に先駆けて自社のMAX保有機群の運航を停止した。その他多くのMAX運航会社が同様に航空当局に命じられる前に、迅速に自社の保有機群を停止して居る。
ボーイングは2019年第4四半期の運航再開を目指して居るが、ずれ込む可能性がある
ボーイングは2019年第4四半期にはMAXの運航再開を予定して居ると言って居り、2020年後半迄には、月間生産率を42機から57機に段階的に増やす事を計画して居る。
これ自身は、以前にもずれ込んで居り、今回もまた遅れる可能性がある(ボーイングも時期については変わる可能性ありと認めて居る)。
多くのエアライン顧客が2020年1月再開を計画して居り、一方で、サウスウエスト航空(最大のMAX運航会社)とエアカナダは2020年2月を目指して居る。2019年11月4日、ライアンエアは、目下、同社の最初のMAX受領を2020年3月/4月に予定すると公表した。
運航停止はボーイングのキャッシュフローと収益に打撃を与えて居る
一方で、殆どの航空機の対価は、納入と共に受け取る事から、運航停止は、ボーイングのキャッシュフローに大きな財政的な打撃を与えて居る。7か月以上に亘って、同社はMAX生産のコストは発生させながら、同機の販売完了によるキャッシュを受け取って居ない。
2019年第3四半期には、同社のフリーキャッシュフロー(営業キャッシュフローから資本投資を引いた額)は、一年前の同期がプラス46億米ドルだったのに対して、マイナス24億米ドルだった。
2019年第2四半期の決算ではボーイングはMAXの運航停止に伴う補償金を56億米ドルと発表して居る。また、生産コストの増大もあった。
S&P グローバルインテリジェンスとマーケットスクリーナー.comの公表したコンセンサス予測によれば、株式アナリストは、2019年のボーイングの純収入は、2018年の104億6千万米ドルから、19億7千万米ドルに急落すると見て居る。
にも関わらず、ボーイングの2019年第3四半期の流動性資産は、新たな借入を獲得出来た事から、前年同期に比べ改善して居る。
MAXの運航停止は、単にボーイングに衝撃を与えただけでなく、広く米国経済にものしかかって居る。
ハーバード・ケネディ・スクールのシニアフェローで、経済学者のミーガン・グリーンは、フィナンシャルタイムズに書いた記事の中で、これは、米国のGDPの伸びを下げ、生産性を減少させ、多くの企業の収益を削って居ると述べて居る。
ボーイングは大きな雇用者で、大きなサプライチェーンを持った、米国最大の工業製品輸出業者であり、その衝撃は重大である。別の予測では、2019年第2四半期の米国のGDPの伸びに対する、MAX運航停止の波及効果は0.25pptから0.4pptになるとして居る。
ボーイングの評判にも悪影響が有る
また、ボーイングの評判、特に、737MAXのイメージには測り難い、悪影響が有る。
エアラインの旅客への意識調査では、少数派だがかなりの数が、運航再開後、初めの半年は、例え運賃が高くついたり、不便な路線になっても、この機材を避けるだろうと示唆して居る。幾らかの旅客は、どれだけ安全運航を積み重ねても、MAXへの懸念は取り除けるものでは無いと言う考えを示して居る。
ボーイングは乗り気では無い様だが、MAXの名称を変更する事が検討されて居る。ボーイングの優先するのは、この機材の安全性を確かなものにする事、安全性について航空安全当局を満足させる事、エアライン顧客、パイロット達、旅行関連組織等に安全性を再度保証する事なのである。
航空当局の認可を得たとしても、MAXの復帰は一晩の作業で済むことでは無い。
CAPAの保有機データベースに依れば、現時点で顧客に引き渡されたものの、留め置かれて居るMAXが384機ある。それに加え、ボーイングは運航停止以来、300機以上を生産し、この数字は2019年末までに400機以上になる可能性がある。
停止が解除された時に、各航空機には一機ずつテストが必要となるだろう。
現存機材の運航再開と、運航停止以降に生産された機材の納入を、今も毎月新たな機材を製造して居る一方で行うプログラムで、暫くの間、ボーイングは忙殺されるだろう。
ある観測者は、仮に航空当局がMAXの復帰を2019年12月に認可したとしても、営業飛行が再開される前に、冬季スケジュールには間に合わない可能性ありと既に見積もって居る。
完全な正常化、全ての機材が運航を再開し、生産遅れが解消される、までには一体どのくらいかかるのかは依然定かでないが、1~2年はかかる可能性がある。
米国以外の各地域の航空当局が、MAX復帰の認可を遅らせれば、この日程は更に複雑化するだろう。
エアライン各社は独自の取り組みをするかも知れない
更には、MAXの復帰が認可された場合、各エアラインはそれぞれ独自の取り組みをするかも知れない。
エチオピア航空は既に、同社はMAXの運航を復活させる最後のエアラインになるだろうと述べて居る。
同エアラインのCEOテオルデ・ゲブレマリアムによれば(2019年10月4日付ブルームバーグ):
「全ての問題に対策がなされたと我々が納得し、そして全ての航空当局が協力する形で再認証がなされた場合、我々は、その時点から我が社のパイロット、乗務員、そして旅客に、この航空機が安全で、再び空を飛ぶ事が出来ると説得するために、時間とエネルギーをかける事になるだろう。」
例えばユナイテッド航空は、旅客がMAX機を使う便に予約を入れると、これを知らせ、希望すれば他の航空機を選んでもらう事を計画して居る。これは顧客の最大満足を目指した、現実的な取り組みに見えるが、同時にMAXの安全性への疑いを深める事になるかも知れない。
ウーオールストリートジャーナルの報道によると、EASA(欧州航空安全機関)は、独自のテストとEU加盟各国の承認を得るための時間がかかり、米国がMAXの運航再開を認可してから、更に4週間は必要であると証言して居るとの事だ。
多くの面で、欧州の航空当局の姿勢は完全に正常に見える。異なった国や地域には、それぞれ独自の安全規制と航空当局があり、決断の正当性について彼らを満足させない限り、一斉に他の組織と足並みを揃えると言う訳に行かない。
だからこそ、古い協調的取り組みは実用的な利点があった。少なくとも、しばしば世界の航空安全をリードする組織と見られて来た、EASAとFAAの間では、それは互いの信頼と標準と言うものを認める世界を反映して居たのだ。
然し、新たな標準は、米国とはEUの様な同盟国を、ライバルである中国と同様に、単なる貿易戦争を仕掛けて来る存在(ドナルド・トランプはEUの敵だとさえ言われて居る)とする世界を反映したものの様である。相互信頼関係や認識は今や、どこか時代遅れの様に見える。
737 MAXの運航停止は、それ自身、世界をそんな新たな標準に導く事象ではなかったのだが、多分、それは移り行く姿を照らし出そうとして居るのだろう。
だが、この紳士協定はMAXの場合、中国の民間航空局がFAAより2日間も早く、2019年3月11日に同機を運航停止とした時に、はなから破綻して居るのだ。
ボーイングは2019年第4四半期に運航を再開させる事を希望して居るが、幾つかの運航会社は2020年1月或は2月を計画して居る。
一方で、運航停止はボーイングの収支決算を直撃し、より幅広く米国経済にのしかかって居る。各国航空当局が、互いにバラバラに行動して居る事が、MAXの復帰を更に複雑化して居る。
Aviation safety regulators may diverge over Boeing 737 MAX's return